僕が見た永田町~素人しか変えられない~㉑ | 伊藤ようすけオフィシャルブログ Powered by Ameba

僕が見た永田町~素人しか変えられない~㉑

IT企業の社長であるK氏から、待ち合わせの場所として指定されたのは、銀座のクラブだった。
打合せにクラブ?それも選挙の?とも思ったが、従うしかない。
法にふれない限り、どんなことをしてでも票が欲しかった。なりふりなんてかまっている場合じゃない。
クラブに出向くなんて、お安いごようだ。
入り口で社長の名前を告げると、付け回しの男性に席に案内される。
場は既に盛り上がっているようで、中央にどっかと座った恰幅のいい男が豪快に笑っていた。カフスボタンのついた見るからに高価なワイシャツを着て、水玉の紺色のネクタイを締めている。おそらく、どこかのブランド品だろう。お金回りは相当良さそうだと想像がついた。
証拠に、周囲を固めた4人のホステスが何とか気に入られようと、シナを作って氏の話に耳を傾けている。
僕の登場に気が付いた一番端に座っていたK氏がさっと立ち上がった。
「M社長、お話していた、伊藤さんです。お力添えよろしくお願いします」
K氏に促されるようにして、僕も頭を下げた。
「初めまして、伊藤洋介です。よろしくお願いします」
顔を上げ、M氏と一瞬目が合ったが、すぐに視線を逸らされた。
氏は早速、右隣に座っているホステスに話しかける。
僕の存在なんて、眼中にないように。
「飲んでないじゃん。焼酎はきらい?苦手だったらワインでも頼めば?」
「えー、いいんですか?」
即座に、一番年長と思しきホステスが、ボーイに向かって手をあげた。
「ワインリストくださーい」
届けられたワインリストを、M氏とホステスが楽し気に眺めている。正直、見ていて気持ちのいい光景ではない。
最近になってお金を持った人の典型だなと思いながら、もちろん顔に出すわけにはいかなかった。とにかく今日はこの男に気に入られるために時間を割いて来たのだ。
すぐにワインが運ばれてきた。
7つのグラスに均等にワインが注がれる。
「カンパーイ」
僕も一口、口をつけたところで、M氏の視線を感じた。
「男だったら、もっと豪快に飲めよ。そんなんじゃ、落選だな」
明らかな上から目線の言い草に苛立ったが、口に出せるはずもなく、勢いよくその場で立ち上がる。
「じゃあ、いただきます!」
飲み干して、氏を見た。視線が合うが、またすぐに逸らされた。
今度は、K社長に話しかける。
「Kさんは、なんでこの人を応援してるの?」
「IT業界がこれからもっと発展していくためには、我々の業界のことを理解してくれている政治家が一人でも多く必要なんですよ。日本は規制大国ですから」
「ふーん、そうなんだ」
いまいち納得していない様子だ。
てっきり話はついていて、僕が顔を出し、気に入られればすんなり選挙の協力をしてくれるものとばかり思っていたのに。
どうやら、そう簡単な話でもなさそうだ。
「伊藤さんね、M社長はとにかく、地元に顔が利くから。千単位で票も持っていらっしゃるから。今日はよーく、お願いした方がいいよ」
おそらく、K氏も僕と同じで、ことの展開に戸惑っているのだろう。少し焦っているのが表情からもみてとれた。
ここから先は自身で頑張るしかない。
「M社長、初めてお会いしているのに、不躾なお願いで申し訳ありません。さきほど、K社長もおしゃっていた通り・・・」
「そういう話は今日はやめてよ」
いきなり話を遮られて、すっと背筋が伸びた。
「今日は楽しく飲む場なんだから。明日、欲しい票の数だけ事務所に名刺送っといて」
ホステス達からの冷めた視線を感じる。
返す言葉は見つからなかった。
俺、なんか気に入らないことしたっけ?
店に入ってきたからの行動を思い返してみるが、思い当たる節はない。
なんだが、自分がとっても惨めな存在に思えてきた。
こんな言われ方をして、それでも頭を下げてまで、票を集めなきゃいけないのか?
他の候補者は皆、これと同じようなことをしているのか?
考えるほどに腹が立ってきた。
「すいません。じゃあ、僕は今日は失礼します」
いきなり言って、立ち上がり踵を返し、後ろを振り返ることなく店を出た。
新橋駅まで歩く道すがら、感情的になって取った行動を少し後悔した。
スタッフの顔が浮かぶ。
つい1時間ほど前、この時期にクラブへ行くことが気乗りしない僕を、「頑張って、たくさん票を集めてもらえるようにお願いしてきてくださいね」と笑顔で事務所を送り出してくれたのだ。
でも今更、戻るわけにもいかない。
まっすぐ帰る気にはなれず、馴染みの店で少し飲んでいくことにした。

㉒に続く。

 

写真は選挙期間中にSNSにあげた写真。
頭ばかり、下げていた気がする笑