「3冊で1,125円で…」
本屋『金子堂』でレジ打ちをしていた高山俊太は言葉と動きを止めた。
「宮前?!」
俊太は驚きの声をあげる。言われた女性は驚き俊太のエプロンに付いている名札に目をやる。そして顔へ
「しゅんしゅん?!」
指を刺されそう言われる俊太は頷く。
「うっそ久しぶりじゃーん!」
明るい声で宮前、宮前愛莉は嬉しさを露わにする。
「成人式は結局会えてないから…中学校以来?」
「確かに、高校からお前県外だったもんな」
愛梨の会話に返答しながら俊太は本の袋詰めをする。
「戻ってきたのか?」
本の入った袋を渡しながら俊太は愛梨に尋ねる。
「そう、旦那の仕事でね」
そう言いながら愛梨は左手の甲を駿太に見せる。その薬指には銀色に輝く指輪があった。
「へぇ…ってことは」
何かに気付いた俊太。
「そう、宮前じゃなくて西原になります」
いたずらっぽく笑いながら首を少し傾ける愛梨。その仕草に懐かしさを感じる俊太。
「私、下のスーパーでパートやってるからまた来るかも」
そう言って愛梨は手を振る。
「あ、マジ?!じゃあ今度時間合う時…」
「ゴホン!」
俊太の話を遮るわざとらしい咳払い。ふたりが咳払いをした方を見ると、睨みを利かせている店長大石の姿があった。
「あ、じゃまたね!」
ことを察した愛梨は慌てて本屋の出入口に踵をかえす。
「おう、じゃあな」
俊太も俊太で焦りを感じながら愛梨を見送る。
「高山君」
愛梨の姿が見えなくなったところで、店長の見た目相応な渋い声が響く。
「レジが混んでないからって私語をしていいわけじゃないからね?」
「すみません…」
バツが悪そうに謝る俊太。
「今度から手短に済ませなさいね」
そう言うと店長はレジから出て行った。
「…はい」
なんとなく理解できないまま俊太は、店長の後ろ姿に返答した。