古本屋のたくさんの魂たちよ | 伊藤三巳華の恐怖新聞2

古本屋のたくさんの魂たちよ

小学2年生の頃だったと思う。


やはり漫画が大好きだった私は、よく近所にある小さな古本屋に通っていた。


店の雨よけが傾いでても老いた店主は気にする様子もなく、

日に焼けてしまった本も装釘がビニールで艶のある新らしめの本も、

背丈が同じならみんな一緒に本棚に納められてしまい、

店の角々には無造作に棚に入りきらなかった本がお薦めでない所存でランダムに塔を作ってる。

そんな古本屋が近所にあったのだ。


その日も誰か新しい漫画を売ってやしないかと店を覗きに来ていたら

新しい漫画が本棚に納められていた。


それは当時私が好んで読んでいた漫画家の少女漫画で

瞳の大きい娘さんがにっこりとこちらを微笑むお決まりの表紙を見て

私はすっかり心を踊らせ手に取り、パラパラと捲った。


すると前の売主がやったのだろう。

所々主人公の女の子に塗り絵がほどこしてあった。


私は宿題のない有意義な時間に腹ばいになり楽しそうに色塗りをする少女を想像し心が温かくなった。

少女漫画を読み主人公になりきって妄想を泳ぐ喜びを私も知ってたからだ。


なんとなくまだ見ぬ前の売主に共感し、幾らだろう?と値段を見る為に裏表紙まで頁を捲る。

ここの本たちは店主よって油性のマジックで思いがけない値段をつけられてしまう可哀相な運命にある。


私も母にお気に入りのキャラクターがプリントされてるシュミーズであろうとでかでかと

華のない私の名前を書かれ心底がっかりした事があるのでなんとなくここの本たちの気持ちがわかる。


パラパラと巻末に向かって頁を捲ってるとあるページで私は息を止めた。


字が書いてある。


書いてあるというか書き殴ってある。


内容ははっきり覚えてないがこの世界に良い事なんてひとつもないと怒りをむき出しにした内容で

続いてそのままの勢いで〝さようなら!〝としめてあった。

後からか先にかわからないけれど、真ん中には〝○悪〝という象徴的な印が施してあった。


茶色い絵の具で文字が書いてあると思っていたが

全部これが血が乾いて酸化した色だと気が付いた時、急にぞっとした。


さっきまで気に入った主人公の絵に塗り絵を楽しむ無邪気な少女と思ってたのに

私の中で急に真っ黒に塗り潰された。

その別人になった黒い輪郭がぐちゃぐちゃと音を立てる様に私の中でリアルになったかと思うと

その妄想は私の傍らに立ち耳元で


〝コレヲ書イテ死ンデヤッタノサ〝


とはすっぱみたいな口を聞く。


私は怖くなってその本を戻し何もなかったかの様に傾いだ古本屋を出た。


―今思えばたちの悪い悪戯だったかもしれない。

そうでなければ、その子の親が知らずに遺品の整理でこの古本屋に売ったのか

または知っていて売ったのか…


その本は雨どいの傾いだ日に焼けてしまった本も装釘がビニールで艶のある新らしめの本も、

背丈が同じならみんな一緒に本棚に納められ、

店の角々には無造作に棚に入りきらなかった本がお薦めでない所存で

ランダムに塔を作ってる古本屋に文豪とゴシップと肩を並べて本棚に納めてある。


まるで昔読んだ「お釈迦様」という本にあった“あの世とは平等である”と書いてあった世界の様に。


彼女のあの赤い悔しくて行き場のない血の叫びもきっと文豪たちと同じ様に

安らかにあの古本屋で眠ってるに違いない。 私はそう想像できる。


…想像できるけれど。


あの血文字の遺書の頁から数頁捲った背表紙の内側に油性ペンで書かれた

〝十えん〝の店主の雑な文字が


今でも私の頭から離れてくれない。




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*と、ボツ原稿を載せてみましたww


ボツ理由=規定文字数を超えて自己紹介が入っていない為(・∀・;)シマッタ!