連載小説ネトウヨ疝気 第8回 | 夏炉冬扇の長袖者の尉のブログ 

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 「生きているか」

警察署の門前で倒れている俺様に声を掛けて来た者がいた。顔を見ると、昨日俺様に向って梯子を投げて来た警察署の小者であった。

「生きているな、死なれては困る。俺は茂賀左衛門だ、俺の家で傷の養生をせよ」

 

 親友といってもネット上のことで、顔も職業も知らなかったが、向こうは、俺様が警察署で無力田岡と名乗ったことで、佐倉衣装と知ったらしい。俺様は茂賀左衛門の肩を借りて家へと向かった。茂賀左衛門の優しい言葉が嬉しかった、ネトウヨの友情は本物だと思った。

 

 茂賀左衛門の家は黒木が言ったように、警察署の小者の組長屋であった。6畳1間で小さな台所と汲み取り式の便所がついている。6畳間は乱雑を極めており、竹と紙が大量に置いてあった。

 

 「どうしてここへ来た」

汚い畳に腹這いになっている俺様に茂賀左衛門が話しかけて来た。ネトウヨの友情を信じて指名手配になっている事情を話した。今の俺様には茂賀左衛門以外に頼る者がいない。

 

 「いつ指名手配になった」

「11日前だが」

「運が良かったな、ぎりぎりのところで助かっている。手配書は宿次飛脚で送られてくるから、東京から岐阜まで12、3日はかかる。明日か明後日には着く」

「どうしてそんな時間のかかる方法で」

「知らん、昔から、そうしているらしい」

 

 俺様は、人違いで逮捕しておいて死罪にしようとして、こんな酷い目に遭わせた奉行に腹が立っていた。

「あの奉行の砂糖とかいう奴はなんだ、どう見てもバカだぞ、それに人が入っている馬も変だ」

「世襲だから仕方がない。あいつは臆病で生きた馬が怖くて近づくことも出来ない、捕り物で奉行が徒歩ではおかしいので、警察署の小者を2人なかへ入れて乗っている」

 

 「現実(うつつまこと)とか言ったな、あの見習い与力、手加減もせずに叩きやがった」

「現実(うつつまこと)は、お前たちが現実(げんじつ)と呼んでいた奴だよ。以前はグレていたが、名古屋の大先生の教導を得て更生して、見習い与力として出仕している」

現実(げんじつ)ならば憶えている、ネットから足を洗って更生したという噂は聞いていたが、こんなところで出会うとは思わなかった。

 

 「お前よりも偉いのか」

「与力だからずっと上だ、あいつは大学を出ているからな」

「小者のお前は」

「義務教育だ」

 

  明日に続きます