妻と大阪市立美術館に『フェルメールと17世紀オランダ絵画展』を見に行った。

 

 修復が終わったヨハネス・フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』が一番の呼び物である。

 

 修復前には、この絵の上部右側は白く塗りつぶされている壁だった。1979年の調査で、その塗りつぶされた壁の下にキューピッドが描かれていることは分かっていたのだが、当時は、フェルメール自身によって塗りつぶされたと思われていた。

 

 

 2017年に専門家たちがこの絵を調査した。専門家たちは絵のいくつかの部分からサンプルを取って調べてみた。すると、上塗りの絵の具の溶剤が、ほかの部分の絵の具の溶剤と成分が異なること分かった。しかも、下の絵の具の層と上の絵の具の層の間にホコリの層があった。下のあった絵が描かれてから少なくとも十数年後に上の層の絵の具が塗られたことが分かった。

 

 フェルメールがこの絵を売ったのは1658年頃で、その一方、フェルメールは1675年に死んでいる。となると、キューピッドの絵を塗りつぶしたのは彼自身ではないことになる。

 

 そこで、この絵を、フェルメールが完成させた当初の絵に戻すための修復作業が開始された。修復は2017年から2021年までかかったそうだ。

 

 まず絵画の表面から、絵を保護するためのニスを取り去る。展覧会では、除去する前と後の絵をモニターで映し出していたが、薄暗かった絵が、ニスを除去すると明るくなった。

 

 次に、修復の専門家が、顕微鏡で見ながら、キューピッドの絵の上の絵の具の層を、解剖用のメスで、ちょっとずつ剥がしていくのである。その様子もモニターで映し出されていた。恐ろしく精神を集中させなければならない作業だ。メスでちょっとでも必要以上に深く突いたら、下の絵が損傷するのだ。土の中から過去の遺物を掘り出すのだって、大層神経を使う仕事だが、この絵の具剥がしはもっとずっと大変だ。

 

 修復が終わった絵がこれである。

 

 

 私は、キューピッドの絵がない方が画面がすっきりしていいような気がする。画中画があると、この絵の中心の女性がぼけてしまうような気がする。

 

 私は腰痛持ちなので、展覧会では大抵途中で腰が痛くなる。今回も痛くなった。ちょうどよい時期に、ホールで、山田五郎によるこの絵の説明の動画が大きなモニターで上映されていてよかった。椅子に座って、5分ほどの動画を2度見た。

 

 フェルメールの絵はこれ一点で、ほかは同時代のオランダの画家の絵である。大部分は小さな絵だ。16世紀はオランダが繁栄していた時代で、中流階級の人たちがその小さな絵を買って、自宅に飾ったのだと思われる。