秋空とキジと極妻
よくキジをみる。
キジとは、鳥の「キジ」で、ももたろうと鬼退治にいく、あれである。
イギリスヘきて、初めて野生のキジを見た。
よく見るのは、運転中に車の前を歩いて横切るキジである。
びっくりしてハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりするはめになる。
わたしも驚くが、もちろんキジも驚く。
それでもあとに引けないキジは猛スピードで走り横切ろうとする。
テケテケテケテケテケテケテケテケ
ものすごく速い。でも、
飛んだらいいのに、キジ...
と、思う。
案の定、車にひかれているキジもいる。
「ひかれたキジは鮮度をみてキジ鍋にする」という強者の友人もいたりする。
なぜ飛ばないのか。
キジは飛べない鳥なのだろうか。
いや、飛ぶな、うん、飛ぶよ。
前に、飛んだのをみたことあった。
小学生の時、担任の先生が
「おうちで飼っている生き物を持ち寄って、みんなで観察しよう」
と言い出した。
その時私が飼っていたのは、
インコ、金魚、ザリガニ、かたつむり、カマキリ、である。
インコは鳥かごが大きいし、金魚とザリガニは水槽に入っているので無理。
残すところは、かたつむりとカマキリだが、かたつむりはえさであるキャベツが臭かったので、多感な少女期であった私のチョイスはカマキリだった。
カマキリを手に登校すると、すでに教室は得も言われぬにおいに満ちていた。
おたまじゃくしや、カブト虫、トンボやちょうなどを持ち寄った子供たちで盛り上がっていたが、
そこはなんといっても、アフリカで生息するとかいう珍しいカエルを持ってきていた、
Y君の独断場であった。
...が、その空気を一変させたのは Mちゃんである。
ヤクザの組長の娘であったMちゃんは風呂敷につつんで、キジを持ってきた。
「だいじょうぶ、飛ばないように羽を切ってあるか......」
らーって言い終わる前に、
クエーーーーっ、
バータッバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
と暴れだし、しばらくは活きのいいかつおを両手で抱く漁師さんのように
キジを必死で抱えていたMちゃんの努力むなしく、そのキジはMちゃんの腕をぬけ、
教室中を飛び回った。
わたしたち生徒が唖然としているうちに、
校長先生や用務員のおじさんまでやってきての大騒ぎとなった。
その後のことはよく覚えていないが、
「はい、どうも、すいませーん」
と棒読みで言いながら、キジを引き取りに教室に入ってきたMちゃんのお母さんの、
黒い網タイツと戸川昌子のような髪型は鮮明に覚えている。
そんなわけで、イギリスに移住してキジをみる回数が多くなったのとともに、
黒い網タイツを思い出すのであった。
Mちゃんのお母さま、今もお元気でしょうか。

参考画像:
シャンソン歌手 戸川昌子先生