食べ物を箸から箸に移すことを礼法では禁じている。箸移しは火葬場でお骨を拾う時の作法なので縁起でもない、ということだが、本当の理由は違う。
箸移しは元々ハレ(祭り)の時の作法だったからだ。
祭りの儀式が済むと、神前に供えていた神饌(みけ)を下げてみんなで食べあう直会(なおらい)にうつる。
この神饌は神霊のこもった食べ物なので、直接手を触れてはいけなかった。肉体は穢れたものと考えられていたからである。そのため、箸移しによる分配の作法が生まれた。
つまり、箸移しはハレの作法なのだ。そして、この作法をお骨拾いにも取り入れたのである。
古来、日本民族ほどハレとケ(ふだんの生活)とをはっきり区別してきた民族はいない。
箸移しはハレの作法だから、ふだんの食事ではこれを禁じたのである。