奈良時代の女性の正装に、領布(ひれ)という透き通るほどの布がある。
後肩から前にまわして両腕にかけるものだが、これは元々、神に奉仕する時に用いていた。
これを振って、神の霊力を増加させたり、招き寄せたりする呪(まじない)の道具であった。
この呪いを「魂振り」といい、空気を振るわすことによって神霊を振るいたたせる呪いである。
拍手を打つのも、鈴を振るのも、神輿を揺さぶるのも、同じ魂振りである。
この魂振りが神に対してだけでなく、人に向けても行われた。
旅立つ人を送るときも、袖や手を振った。神霊を招きよせて、その神霊の加護によって旅の安全を祈るためである。これも魂振りである。
この古代の呪いの形式だけが現在に残っているのだ。