ITLS Access の概観 | ITLS ACCESS委員会

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ITLS Access の概観

目的

この補足を読むことによってあなたは…

1、EMS隊員は、場所によっては、基本的な装備のみを使って事故車にアプローチする技術が必要となることを認識することができる。

2、こうした技術を身に付けるためのキルトレーニングをいかに行うべきかを理解が理解できる。

自動車事故は多発外傷の主要因となっている。外傷を受けた患者への質の高い医療の開始が早ければ早いほど、その患者の回復経過も良いことは既に研究で示されているとおりである。ITLSの目指すところは事故現場に駆けつけるEMS隊員のための外傷患者の観察手技、固定器具の使い方、それらのトレーニングの機会を提供し、結果的に、迅速に負傷者を適切な医療施設に運ぶことにある。

だが、外傷患者の観察と治療を始める前に、EMS隊員は患者への安全な接触路を確保しなければならない。

EMS隊員が自動車事故現場に出動する場合、ほとんどの地域では救急者と重装備の救助資機材を積載した消防車や救助工作車がほぼ同時に到着する状況下にある。しかし、もっと田舎や孤立した地域ではそれらの装備や人員が迅速に、また充分に配備されていない状況も存在する、または活用できたとしても到着までに時間がかかる場合があるかもしれない。これらの地域のEMS隊員は救急車や通常の一般的な消防車に積載できるあらゆる装備を有効に活用しなければならない。

EMS隊員が事故車に閉じ込められた負傷者への接触路を確保できるよう、最新の情報を集め、ITLSは新ITLSアクセスコースの充実を行った。このトレーニングによってEMS隊員はより安全に自動車事故の負傷者に近づく知識、手法を養い、ITLSコースで学んだ定石を使い活動することが出来るようになる。すなわち、事故発生後のゴールデンアワー、プラチナタイムをより有効に活用できようになるということである。

これらの資機材は、どんな救急車や消防車にも容易に積載でき、基本的な資機材であり、かつ高価でないものである必要があり、これらを使用した救出技術がアクセスコースでは提供えられる。この実践的なコースではそうした道具を何処で、どのように使用し、いかに迅速に事故車両を安定させて患者への接触路を確保するかを提案している。

どんな事故現場でも一番大切なことは安全の確保である。隊員自らを二次災害及び血液や汚染物質よる感染から防ぐ為、防護設備をきちんと身に着けることは決して軽んじられてはならない。事故現場においては隊員一人一人が安全管理の責任者であり、自分や同僚の安全確保に優るものはないことを忘れてはならない。すなわち、隊員自身が負傷してしまったら、事故の負傷者を助けることはできないのである。

事故現場の観察は通報時、出動時に得た情報からもう始まっている。現場に近づくにつれて、周りにどんな危険要素があるか、どういった受傷機転が考えられるか観察していく。例えば、ガソリンは漏れていないか、危険な荷物はないか、切断された電線はないか、などである。

充分な知識、装備や訓練なしに、切れて垂れ下がっている電線に触ってはならない。電力会社が通電を遮断し、安全であるという答えを出すまでは、電流があって危険であるとみなすべきである。車を安全な場所に停車し、安全を確信してから現場に入るべきなのである。緊急的な場面で適切な防護設備なしに現場に近づけないことのジレンマも生じ得るであろうし、これは人命に関わる最も難しい決断となるであろう。しかし、適切な防護設備なしに飛び込めば、結局は自分の命も犠牲者の命も失うことになりかねない。

犠牲者は何人か?救助には何がどれだけ必要なのか?それはどのように使用されるべきなのか?これらのことを判断し、指令センターに伝えなくてはならない。この時点で、隊員の一人がコマンダーとして現場を指揮しなくてはならない。これは通常の現場ではそれほど意識することなく行われているかもしれないが、大きな事故の場合は特に意識して迅速に行わなければならない。

事故現場周囲を見渡し、その状況をしっかり把握して負傷者を適切な場所に集める。まだ負傷者はまだ車に残っていないか?残っているとしたら、どうやって車両と負傷者の安全を保つのか?車が引っくり返っていなくても固定されていなければ、隊員に危害が及んだり、負傷者さらに悪化したりするかもしれない。車止めがなされたとしても、確実に固定されなければ車のサスペンションの加減でまた動いてしまうかもしれない。車が横倒し、もしくは引っくり返っていれば一層不安定となることは言うまでもない。負傷者に近づいて観察する前にまず事故車両を安定化させなければならないのである。先着した救急隊が応援隊が到着するまで、現場にあるジャッキやスペアタイヤ等も車を安定させる為に使えるかもしれない。

車が安定した状態になって初めて車の中の負傷者に取り付き、観察を行うことが出来る。理想を言えば、ドアなどの既に存在する開口部から患者を救出できればそれに越したことはない。タイヤが外れて不安定な状態であったり、ドアが壊れたりしている場合は別の部分から車内に進入しなくてはならない。一番簡単な方法は窓ガラスを破ることだ。ほとんどの車のサイドガラスは硬度ガラスで、表面が壊れると粉々になり、鋭利な屑と化す。サイドガラスを破って車中に入るしかないときは、患者からできるだけ離れた場所を壊すこと。患者を破片から守る為にできるだけの対処をすること。毛布やコートなども活用する。センターパンチを窓の端にあてがって使えば手早く窓を壊せる。ガラスを取り除き、ITLS Primary Surveyの手技をもって患者の観察を始める。

また、救出の途上で出血した患者と一定の時間、接触せざるを得ないこともふまえて、適切な防護服を着用しなければならない。患者は脊髄の動きを制限されるべきであるので救出は簡単ではないであろう。普通の状態の人間一人が車から出るよりもっと広いスペースが必要になる。救出途中の気道確保や他の負傷者の重要な機能を守るのはEMS隊員の責任なのである。

救出のためにはチームとして連携して活動を行うことも同様に必要である。そのためには隊員それぞれが救出機材の使い方や必要とされる救出技術に精通していなければならない。技術向上のためには、より実際の現場に近い状況で、より多くの訓練をし、迅速に概括を把握し、より多くの細かな情報を見逃がすことのないように収集できるように繰り返しトレーニングすることが最良の方法である。