「トランプ2.0」と米国テクノロジー業界の動向 櫛田氏インタビュー – TECHBLITZ

 

「トランプ2.0」と米国テクノロジー業界の動向 櫛田氏インタビュー」(TECHBLITZ)がちょっと面白い。

 

「櫛田 健児

カーネギー国際平和財団シニアフェロー

1978年生まれ、日本育ち。スタンフォード大学卒、経済学、東アジア研究専攻。カリフォルニア大学バークレー博士号修了。スタンフォード大学アジア太平洋研究所でポスドク修了後、2011年から2022年までスタンフォード大学アジア太平洋研究所日本プログラムリサーチスカラーを務めた。カーネギー国際平和財団シニアフェローで日本プログラムディレクター。シリコンバレーと日本を結ぶJapan – Silicon Valley Innovation Initiative @ Carnegieプロジェクトリーダー。キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルリサーチフェロー。グローバル政治経済・地政学コンサルティングファーム、マクロ・アドバイザリー・パートナーズのシニアアドバイザー。東京財団政策研究所上席研究員(客員)、スタンフォード大学非常勤講師(国際政策修士プログラム)、Japan ICU財団の理事なども務めた。」

 

「シリコンバレーの中心地から、リアルタイムに現地のテック業界に関する情報を収集・分析・発信している櫛田健児氏に見解を聞いた。(文中敬称略)

目次

・トランプ政権とテック業界、「就任前」と「就任後」

・社会政策と経済政策で異なる距離感

・ここまでのカオスは想定外だった

・トランプ政権からテック業界に吹く「追い風」とは」

 

「トランプ政権が就任後の2カ月であまりにも急激に色々なことをしてきたので、この質問に答えるにはまず論点を3つのポイントに分け考えないといけません。

 

1つ目は、テック業界でのトランプ支持の実態です。

2つ目は、事前の期待と世界経済、アメリカ経済への大打撃という現実とのギャップです。実際にトランプ政権になってから、多くの人の事前予想を遥かに上回るカオスをトランプが作り出しました。世界情勢と世界経済、そしてアメリカ経済へのダメージがこれほどまでとは想定しなかったので、トランプの経済政策に期待していた人たちは事前の期待と今の現状の違いにどう考えているか、という点です。

3つ目は、事前予想を上回るカオスになってもなお期待できる領域はどういうところなのか、という点です。これは事前の期待とは多少異なる領域もあれば、トランプ就任前に期待していた領域でまだ期待できる、という領域です。」

 

「これらの価値観に対し、近年の選挙戦での共和党は中道の保守層よりも右に寄った政策を進めてきました。

 上記と同じ項目を並べると真逆です:社会保障や所得分配制度よりも政府支出を減らすことを第一として社会保障制度のせいで働かない人もいるので社会保障を大幅にカットするべきで、国民全員が加入できる健康保険制度はフェアではないとして「オバマケア」というレッテルをつけて取り壊すべきで、教育省は解体するべきで、移民を多く受け入れすぎたアメリカは移民を厳しく規制し、不法移民は1日も早く強制退去させ、科学者たちは政治的なプライオリティーに沿った研究を行うべきで、人工妊娠中絶は殺人に相当するので完全に違法化するべきで、行きすぎたDEIによって白人に対する差別が起こるようになったのでDEIを全面禁止とするべき、などというものです。どれもリベラルとは真逆で、妥協点が見出しにくいか、全く見えません。でもトランプが率いる共和党が勝ったため、実際にはこちらの社会政策が急ピッチで進められています。」

 

「トランプ政権の誕生を支持していたテック業界の人たちの一部は、経済政策は保守的であり、社会政策よりも経済政策の価値観を重んじていた人たちでした。大っぴらに経済政策を優先させたが故にトランプを支持すると表明した人たちの例にはベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz創業者の2人)がいます。しかし、多くのシリコンバレー関係者は同じように考えていても、社会政策の価値観がリベラルだったり、周りの人たちがリベラルな社会価値観を持っていたので、内心トランプを支持していてもあまり大きな声を出しませんでした。そして経済価値観と社会的価値観が両方ともトランプ寄り、保守寄りだった人たちは大きな声でトランプを支持しました。投資家のピーター・ティールやイーロン・マスクです。」

 

「シリコンバレーがトランプにある程度歩み寄った2つ目のポイントは、バイデン政権がシリコンバレーに対してかなり否定的なスタンスを取っていたと見なされたからです。

 公正取引委員会は大手テック企業のGoogleやAmazonを執拗に攻め、現行の独占禁止法のセオリーではなかなか難しい切り口で大手テック企業の解体を推奨しました。実際には裁判には持ち込みにくい案件だったのですが、バイデン政権はアメリカが世界に誇る大手テック企業は世界中のプラットフォームとして自国の強みであるという観点ではなく、競争を阻害するほど大きくなってしまった危険な存在、と敵視すらしている論調がありました。」

 

「3つ目ですが、トランプ氏が大統領選を勝利した直後のテック業界の歩み寄りは「勝ち馬に乗れ」という力学だったと思います。バイデン政権からは突き放された気持ちのテック業界はトランプ氏が大統領に就任する前から多くの接触の機会と、テック業界の人材を受け入れました。Apple、GoogleやMetaのリーダーたちが次々にフロリダにあるトランプ氏のリゾートを訪問し、就任式に100万ドルずつ寄付したり、ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンがそのリゾートに通い詰めて人事決定に携わったりしました。そしてもちろん、イーロン・マスクはこのリゾートに住み込んでトランプ氏の真横で世界の首脳たちとの電話会談に参加したり、聞いたりしていました。」

 

「例えば、AIの開発が加速します。

 中国のDeepSeekのおかげもあるのですが、生成AIのトップ研究者たちには1年ほど前からこのままの方向性で規模だけ追ってもあまり進化はないだろう、という人が結構いました。規模というのは巨大なデータセンターへの投資と、膨大な電力を使った生成AIの学習などです。中国のDeepSeekがかなり少ないリソースで結構良いものが作れたので、規模の話だけではないということが分かりましたが、そもそも今の生成AIのアプローチとは異なる手法も一気に飛躍する可能性があります。現代の機械学習ももともとはニッチな研究でしたし。」

 

「AIの開発は政権とつながる話です。もし民主党政権になっていたら、AIの開発は安全性を重視して、割合「重い」政府の規制の対象となった可能性があります。でもイーロン・マスクを始め、政権に近いテック業界の人材はAIに対する規制を極力「軽い」もの、あるいは無規制にしたいと考えています。したがってAIの開発と実装は加速するでしょう。ここでアメリカと、実装にはとても慎重な欧州との差がもっと開くでしょう。私個人は制約無きAIの開発と実装が一概に良いことだとは考えていませんが、これはシリコンバレーとテック業界には追い風です。」

 

「そしてトランプ政権下の公正取引委員会はテック企業の解体論にはあまり興味がありません。むしろテック業界に対しては、DEIなどのプログラムを一切排除し、SNSでは言論の自由を確保するために検閲をしてはいけない、という主張をしてます。公正取引委員会による独占禁止法は、これらの政権の意向に反した場合に適応を検討するムチとして使うことを仄めかしている。大手テック企業にとっては独禁法や解体論に比べたら政権の意向に沿った方が遥かに飲みやすい条件なので、そちらに進んでいる。これは大手テック企業にとって強い向かい風が大幅に弱まったと解釈して良いはずです。」

 

 

小松 仁