リスクのある科学実験を社会の中で行うべきか – WirelessWire News

 

「リスクのある科学実験を社会の中で行うべきか」(福島真人さんWirelessWire News)がちょっと面白い。

 

「福島真人(ふくしま・まさと)

東京大学大学院・情報学環教授。専門は科学技術社会学(STS)。東南アジアの政治・宗教に関する人類学的調査の後、現代的制度(医療、原子力等)の認知、組織、学習の関係を研究する。現在は科学技術の現場と社会の諸要素との関係(政治、経済、文化等)を研究。『暗黙知の解剖』(2001 金子書房)、『ジャワの宗教と社会』(2002 ひつじ書房)『学習の生態学』(2010 東京大学出版会、2022 筑摩学芸文庫)、『真理の工場』(2017 東京大学出版会)、『予測がつくる社会』(共編 2019 東京大学出版会)、『科学技術社会学(STS)ワードマップ』(共編 2021 新曜社)など著書多数。」

 

「ここで明らかになってきたのは、打ち上げ回数の減少に伴う副作用として、新人がこうしたプロジェクトを経験できる回数そのものも減少傾向にあるという点である。かつては頻繁にロケット打ち上げがあり、新人はなんだかんだいってもどこかのプロジェクトに参加して実際の経験を積む機会が存在した。しかし現状では、新人が実際のプロジェクトを経験するチャンスそのものが減少し、長期的には人材育成に大きな影響が出ると懸念されている。

 そこで近年注目されているのが、小回りの利く超小型衛星を学生に造らせて、それを通じて実際のプロジェクト経験を踏ませるという新たな試みである。ロケット本体も、ロケットに乗せる衛星や観測装置も巨大化、複雑化する傾向があるが、その衛星そのものを超小型化することで、学生の現場経験のチャンスを増やそうというのである。」

 

「「実験」という言葉を実験科学の厳密さから離れてできるだけ広く解釈し、学習に必須の試行錯誤の過程、と再定義すると、そうした実験過程には、それを阻害しかねないさまざまな社会的、文化的、物質的な制約があることが分かる。そうした諸制約に対して、いかにして実験を可能とする社会的空間を確保するかが、様々な現場での喫緊の課題なのである。筆者が「学習の実験的領域」と呼ぶこうした空間において、ここでいう広義の実験は、失敗の多様なコストに対して脆弱な面がある。これらコストには、経済面のものもあれば、一般的な社会的性質を持つものもある。そのいずれにせよ、どう失敗のコストをカバーし、どうやって実験を可能にする空間を確保するかは、多様な分野で(社会)実験が語られる現代においては、必須の観点なのである。」

 

 

小松 仁