MIT Tech Review: それでもまだ、量子コンピューターが人類に必要な理由
「MIT Tech Review: それでもまだ、量子コンピューターが人類に必要な理由」がちょっと面白い。
「Peter Barrett
量子コンピューティング、量子アルゴリズム、量子センシング分野のアーリーステージにあるディープテック企業(サイクオンタム、フェーズクラフト、エヌビジョン、イデオン)に投資するプレイグラウンド・グローバル(Playground Global)のゼネラル・パートナー」
「人工知能(AI)ブームによって、量子コンピューターの役割を疑問視する声がある。だが、AIは現在の常識に基づくデータで訓練されたものだ。大規模な量子コンピューターが実用化されれば、人類にとって未知の世界が開かれるだろう。
・エヌビディアCEOの予測に反し、量子コンピューターの実用化は近づいている
・現在のコンピューターやAIでは、物質の量子的性質を正確に計算できない
・量子コンピューターは化学・材料・医療分野に革新をもたらす可能性がある」
「私は投資家として量子コンピューティングの動向を注視してきたが、このテクノロジーが急速に実用化へと近づいていることは明らかだ。昨年、グーグルの量子チップ「Willow(ウィロウ)」は、より大規模なコンピューターへとスケールアップするための有望な道筋があることを証明した。このチップは、量子ビット(キュービット)の数が増えるほど、エラー率が指数関数的に減少することを示した。また、現在最速のスーパーコンピューターなら10の25乗年(10セプティリオン年)かかるベンチマークテストを、わずか5分以内で完了させた。既知のアルゴリズムでは商業的に実用化するには不十分な規模であるものの、Willowは量子超越性(従来のコンピューターでは現実的な時間内に達成できないタスクを実行する能力)とフォールトトレランス(エラーが発生するよりも速く修正する能力)の実現可能性を示している。」
「産業界では、密度汎関数理論(DFT:Density Functional Theory)が計算化学および材料モデリングの主力ツールとして広く利用されており、原子、分子、固体などの多体系の電子構造を調べるために活用されている。DFTは、電子間相関が弱い系に適用した場合には妥当な結果を出すことができる。しかし、興味深い問題の多くに対しては、DFTはまったく役に立たない。」
「根本的な問題は、AIモデルの性能は訓練に使用したデータの質に依存するということだ。たとえば、インターネット上の膨大なデータを基に大規模言語モデル(LLM)を訓練すれば、人間の文化をある程度理解し、効果的に言語を処理するモデルを構築できる。しかし、もしDFTが非自明な相関を持つ量子系に対して無力であるなら、DFTに基づく訓練データセットは果たしてどれほど有用なのだろうか?もちろん、合成や実験によって訓練データを生成することも可能だが、現実的に作成できる物理サンプルの数は膨大な設計空間に対してごくわずかであり、多くの可能性が未開拓のまま残されてしまう。十分に正確な訓練データを生成できる信頼性の高い量子シミュレーションが可能になって初めて、従来のハードウェア上で量子に関する問題に答えるAIモデルを構築できるようになるのだ。」
「つまり、私たちには量子コンピューターが必要なのだ。量子コンピューターは、発見の時代から設計の時代へと私たちを導く可能性を秘めている。今日の「推測、合成、テスト」を繰り返す反復的なプロセスは、正直なところ、驚くほど不十分なのである。」
PsiQuantum
小松 仁
