Modern Times | もう一つの科学リテラシー

 

「Modern Times | もう一つの科学リテラシー」がちょっと面白い。

 

「子どものころに教科書に書いてあったはずのことが、大人になったころには否定されていたという経験を持つ人は少なくない。これは主に、後の研究で新たな学説が浮上し、そちらが有力だと判断されたためである。学説は常に変化している。確固たる真実を見つけることは容易ではないのだ。では私たちは、どのように知識や情報と向き合っていけばいいのだろうか。科学技術社会学の専門家、福島真人氏が綴る。」

 

・科学も歴史学も、学説は変化する

・学説は変化するからこそ、あえて「非決定」を選ぶことがある

・外部にいる人には、変化する学説はよくわからない

・すべての研究は先行研究の修正を意図する

・科学リテラシーに終わりはない

 

「近年、病気治療に関する従来のやり方に対して、大きな変化が見られる場面が少なくない。典型が糖尿病に関するものである。かつてはカロリーの過剰摂取が問題ということで、肉や油のようなカロリー高めのものは避け、白米などのあっさりした食事が中心だったという。しかし近年、血糖値スパイクという、食後の血糖値が急激に上がる現象が注目され、これを避ける方向に治療内容が変わってきた。そうしたスパイクの起きやすさを示すGI値のような指標を列記した書物すらある。そうなるとカロリーの低い白米よりも、血糖値を上げにくいチャーハンの方が良いということになる。」

 

「とはいえ、前述した織田信長のイメージを修正しつつある近年の歴史学の活況を、修正主義的運動と批判する声は聞いたことがない。むしろ従来からある資料をより厳密に分析したり、新たな資料の分析によって従来学説の修正を試みているという正当な研究的態度であろう。では、文豪シェークスピア(W.Shakespear)の正体をめぐる論争はどうであろうか。この作家が現在いわれている人物ではなく、他の人物、例えば高い学識を誇り、海外在住の経験もある17代オックスフォード卿(E.de Vere)ではないかという論争である。フロイト(S.Freud)を含めた多くの人々が支持し、関連する映画やドキュメンタリーも出ている説であるが、彼の死後もシェイクスピアの名で作品が出版されており、専門家の間ではこの説の支持者は少ないという指摘がある。」

 

福島真人(ふくしま・まさと)

東京大学大学院・情報学環教授。専門は科学技術社会学(STS)。東南アジアの政治・宗教に関する人類学的調査の後、現代的制度(医療、原子力等)の認知、組織、学習の関係を研究する。現在は科学技術の現場と社会の諸要素との関係(政治、経済、文化等)を研究。『暗黙知の解剖』(2001 金子書房)、『ジャワの宗教と社会』(2002 ひつじ書房)『学習の生態学』(2010 東京大学出版会、2022 筑摩学芸文庫)、『真理の工場』(2017 東京大学出版会)、『予測がつくる社会』(共編 2019 東京大学出版会)、『科学技術社会学(STS)ワードマップ』(共編 2021 新曜社)など著書多数。

 

小松 仁