好発進の民主党ハリス候補、打倒トランプのカギは「格差問題」|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

 

「好発進の民主党ハリス候補、打倒トランプのカギは「格差問題」」(ニューズウィーク日本版)がちょっと面白い。

冷泉彰彦(ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト)

 

「予想以上に幸先の良いスタートを切った格好のハリス氏ですが、この先、本選でトランプ候補を倒すためにはどうしても避けて通れない問題があります。それは、国内における格差の問題です。」

 

「ハリス氏の当面の活動は、23日の演説でもそうでしたが、人権派の鬼検事という自身のイメージを最大限に発揮して、中絶や人種の問題を中心にトランプ候補と激しく渡り合う作戦が中心となりそうです。これによって、女性や有色人種の票をまとめきるというのが狙いです。

ですが、いかに切れ味の良いトークでトランプ氏に対抗するにしても、これだけでは勝てません。特に勝敗を左右すると言われている「スイング・ステート」、つまり民主党と共和党が拮抗している接戦州で勝つには、もう1つの大きなテーマで論戦に勝つ必要があります。それは国内の格差問題です。」

 

「現在のアメリカは、コロナ禍に対してトランプ、バイデンの両政権が実施した巨額のバラマキの結果、カネがまだ惰性で回り続けています。その結果として景気は過熱気味で、物価は高止まりしています。全体の数字は良いのですが、物価が下がらないことで年金生活者の一部や貧困層からは、生活の苦しさを訴える声が続いています。また大学卒の若者の就職も難しい中で、奨学金の負債に苦しむ層もあります。一方で、ハイテクの進歩による自動化、とりわけAIの実用化などで従来型の雇用には揺らぎが見えます。」

 

「これに対して、ハリス氏の本来の政策はグローバリズムと知的産業に寄り添うものでした。つまり、国際分業を認め、知的な産業で国内競争力を拡大して、全体の経済はトリクルダウンで回すというクリントン路線に近い考え方です。自由経済こそがアメリカの活力であり、人々には機会の均等を保証し、良い意味での競争を通じて全体を活性化するというわけです。」

 

「ハリス氏が問われているのは、この考え方だけでは、2つの敵に攻め込まれてしまうという問題です。2つの敵とは、民主党内の左派と、トランプ派のことです。まず民主党内の左派は、国内の格差問題に非常に敏感です。医療保険が部分的に民間の営利企業によって担われている現状(オバマケア)に反発し、奨学金ローンには徳政令を要求、富裕層への課税を強化して再分配を強化するというのが彼らの主張です。」

 

「その左派の一部は、「Kハイブ」というニックネームで呼ばれるハリス氏の支持者グループと激しく対立した過去もあります。また、左派の中では、ウォーレン議員は支持に回ったものの、リーダー格であるサンダース、オカシオコルテスの両議員は、ハリス氏への最終的な支持はまだ表明していません。

 仮に党内左派の全面的な支持を受けることができないと、2016年に多くの若者が棄権することでヒラリー・クリントン氏がトランプ氏に負けた選挙の再現になってしまいます。格差問題に関する柔軟で時代に適応した政策を打ち出し、党内左派を取り込むことはハリス氏にとって非常に重要です。」

 

「もう1つの敵はトランプ陣営そのものです。トランプ陣営は「忘れられた白人層」を代表すると言って良いJ.D.バンス上院議員を副大統領候補に指名することで、この国内格差問題において「自分たちこそ苦しんでいる労働者の代表」というイメージを確固たるものにしています。

彼らの戦術は、庶民の味方は自分たちであり、人権派を自称するハリス陣営はエリートの代表というイメージを作り上げることだと思います。万が一このパターンにはまると、接戦州での勝利は難しくなってしまいます。」

 

バイデンからバトンを渡されたハリスは記録的な寄付を集めた Mike De Sisti/Milwaukee Journal Sentinel/USA TODAY NETWORK-REUTERS

 

小松 仁