MIT Tech Review: 「電子薬」がやってくる—— 医薬品を電気に置き換える革新的技術の現在 (technologyreview.jp)
「MIT Tech Review: 「電子薬」がやってくる—— 医薬品を電気に置き換える革新的技術の現在」 (technologyreview.jp)がちょっと面白い。
サリー・アディーは科学・テクノロジーライター。『We Are Electric:Inside the 200-Year Hunt for Our Body’s Bioelectric Code, and What the Future Holds(我々は電気的である:身体の生体電気コードを探る200年の歴史と、将来の展望)』(2023年刊、未邦訳)の著者。
「薬に代わる新たな治療法として注目を集める「電子薬」。神経刺激から細胞操作まで、電気で病気を治す革新的技術が従来の医療の常識を覆そうとしている。10億ドルの投資と10年の歳月を経た現状と展望を探った。」
・電子薬は迷走神経刺激により免疫系を制御し慢性疾患を治療する試み
・非神経細胞も電場に反応し傷の修復や遺伝子発現を調整できることが判明
・神経以外への電気医療の応用にも徐々に支援が強まっている
「そのためには、新しい種類のインプラント(体内に埋め込む医療デバイス)が必要だった。それが2013年にネイチャー誌で正式に紹介された「電子薬(electroceutical)」だ。「私たちは医薬品に代わるデバイスを開発しています」。論文の共著者である神経外科医のケビン・トレイシー博士は、ワイアード(Wired)英国版の誌面でこう語った。これが「医療の中心」になるはずだった。厄介な副作用はもう起こらない。1つの医薬品の効果が個人間で異なるかもしれないと推測する必要もなくなる。」
「同時に、電気を使って身体に介入する際の別の方法に関して、科学の新領域がまとまりを見せ始めている。神経系、つまり脳と身体の間で電気信号を運ぶ幹線道路に注目するのではなく、皮膚や腎臓など身体の異なる場所にある細胞をかつてないほど直接的な形で電気で操作するための巧妙な方法を発見しようとする研究者が増えている。彼らの取り組みは、このアプローチが当初の電子薬への期待と合致する可能性がある可能性を示している。その期待とは、高速で治癒する生体電気包帯、自己免疫疾患の治療に対する新たなアプローチ、神経損傷の新たな修復法、より優れたがん治療の実現である。しかし、そうしたベンチャーは、気前の良い投資の恩恵を受けられていない。投資家は、生物学と電気の関係を神経系の文脈でしか理解していない傾向にある。「このような思い込みは、神経科学の100年間で植え付けられてきたバイアスや盲点から生まれたものです」。タフツ大学の生体電気研究者、マイケル・レビン教授は話す。」
「こうした要素を1つにつなぎ合わせたのがケビン・トレイシー博士だった。その後、同博士が迷走神経刺激研究の対外的な顔になるまでそう時間はかからなかった。同博士は2000年代に、迷走神経に電気刺激を与えることで動物の炎症を抑えられることを示し、これを「炎症性反射(inflammatory reflex)」と呼ぶようになった。この炎症性反射は、迷走神経が多岐にわたる疾患をオフにするスイッチとして作用する可能性があること、本質的に免疫系をハッキングし得ることを意味していた。2007年、ニューヨーク州にあるファインスタイン医学研究所(Feinstein Institute for Medical Research、当時は別名称)に拠点を置いていた同博士は、自らの識見を基にボストンのスタートアップ「セットポイント・メディカル(SetPoint Medical、以降セットポイント)」を立ち上げた。炎症性腸疾患と関節リウマチを皮切りに、迷走神経のスイッチを切り替え、苦痛を緩和するデバイスを開発することがセットポイントの目標だった。」
「だが近年、実験科学と応用科学の両分野で朗報がもたらされた。1つは、遺伝子発現を研究する実験プラットフォームは変化の最中だ。昨年、サラ・アバシ、ジュゼッピ・エリー上級研究員、そしてテキサスA&M大学およびヒューストン・メソジスト研究所(Houston Methodist Research Institute)の研究者によって1つの進歩が明らかになった。彼らが入念に設計した研究プラットフォームが、関連する細胞の遺伝子発現特性と、それが電場の下でどのように変化するかを追跡した。これは具体的には、生物学において発見されたものを忠実に模倣するよう調整されたものだ。彼らは組織の成長に関わる2つのタンパク質の活性化と、CD‐144(カドヘリンと呼ばれるタンパク質の一群の特定版)と呼ばれるタンパク質の発現が増大するというエビデンスを発見した。カドヘリンは細胞同士が接着するための重要な物理組織で、細胞間の小さな握手のように作用する。これは細胞が個ではなく集団として活動するために欠かせない。」
「神経刺激は今のところがんに対する効果を発揮していない。だが別の形の電気刺激は、驚くほど効果があることを示している。脳腫瘍の一種である膠芽細胞腫に関するある研究において、電気的な腫瘍治療が化学療法のような役割を果たした。電場が脳腫瘍を破壊し、電気的な特性によって分裂した細胞だけを選択的に殺すという仕組みだ(がん細胞は病理学的に分裂するが、完全に分化している神経細胞は分裂しない)。国際医学誌「ランセット・オンコロジー(Lancet Oncology)」で最近発表された研究は、こうした電場は肺がんにも効果を発揮し、既存の医薬品の効果を高め、生存率を伸ばせる可能性があることを示している。」
Andrea Daquino
小松 仁
