60年代学生運動『いちご白書』再び、ニューヨークのキャンパスが燃えている|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

 

「60年代学生運動『いちご白書』再び、ニューヨークのキャンパスが燃えている」(冷泉彰彦ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。ニューズウィーク日本版)がちょっと面白い。

 

「イスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲テロが起きたのが、昨年の10月7日でした。これに対するイスラエルのネタニヤフ政権の反応は、ハマスのメンバーへの攻撃というものでした。この作戦は、当初は北部への空爆を主体としたものでしたが、やがて陸上からの侵攻も激化、さらに南部への攻撃も開始されるなどエスカレートしていきました。結果的にパレスチナの民間人犠牲は、3万人を超えると報じられています。

 この事件の影響を大きく受けているのがニューヨーク市です。この半年間、イスラエル、パレスチナ双方の支持派によるデモが常に市内で発生していたからです。当初の段階ではイスラエル支持派はマンハッタンの東岸にある国連本部を拠点としてデモ活動を行っていました。また、パレスチナ支持派は島の中心にある繁華街の、タイムズ・スクエアでデモを行うことが多かったのです。」

 

「初期段階においては、警察当局は両派が接触するのを防止するため、徹底的な引き離し作戦を行っていました。両派の側も衝突を避け、穏健に主張を行うことで世論を敵に回さないようにしていました。この時点では、パレスチナ支持派は、アラブ圏の出身者や二世などが中心でした。

 

その次の段階では、コロンビア大学が主な舞台になりました。例えば、コロンビア大学の教授に就任したヒラリー・クリントン元大統領候補などは、イスラエル支持の立場を明確にしたため、多くの学生が授業をボイコットするなどの騒動が起きました。今年に入ると、イスラエルの攻撃による民間人犠牲が止まらない中で、アラブ圏出身以外の一般学生からもネタニヤフ政権の軍事行動に反対する動きが拡大していきました。」

 

「コロンビア大学のキャンパスは、その結果として両派がにらみ合う危険な状況になりました。やがて、パレスチナ支持派がキャンプ村を開設、先週4月16日の火曜日頃までには、学生たちがガザ攻撃反対を叫びながら歌って踊る「解放区」の様相を呈していました。その中では、「ティーチイン(討論集会)」「記録映画の上映」「反戦詩の朗読会」などのイベントも行われ盛り上がりを見せていたそうです。

 これに対して、18日の木曜日には大学当局が、この「解放区」、つまりキャンパス内にテントを張っていた学生約100名について停学の処分を行うとともに、警察の介入を要請して彼らは逮捕されました。姉妹校の女子大、バーナード・カレッジの学生も追って処分対象になりました。

この動きはこの問題の大きな転換点になりつつあります。処分と逮捕の対象となった学生の多くは直接暴力行動に走ったわけではありません。学生たちが主張している、「イスラエルがガザで行っているのはジェノサイド(大量虐殺)だ」とか「即時停戦を」という言い方は、「アンチ・セミティズム(反ユダヤ)」であって、人種迫害という重大な犯罪だというロジックが逮捕の理由とされています。」

 

「本来この「アンチ・セミティズム」という言葉は、欧州やロシア、アメリカ南部などで歴史的に見られたユダヤ人迫害を指す言葉です。パレスチナ側に立って、イスラエルの政策を批判する意見への非難に使うのは、言葉として誤用なのですが、ここへ来てそうした歯止めはなくなりました。」

 

「まるで1968年のベトナム反戦運動の再来のような状況になってきました。場所も「コロンビア大学」ということで、映画にもなった『いちご白書』が記録したベトナム反戦の日々の再現とも言えます。そして、政治的な構図も似通っています。1968年には、若者が反戦運動に走る一方で、民主党は穏健なハンフリー上院議員を大統領候補にしました。そのために、失望した若者たちは棄権して、ニクソンの勝利をアシストした格好となりました。」

 

「従って、若者たちが怒れば怒るほどトランプ候補が有利になるという構図が出てきています。この学生たちの行動については、残り数週間で各大学は学年末の期末試験の時期になります。さすがに試験のボイコットとか妨害という行動にはならないと思うので、そこで一旦は収束する可能性が強いと思います。ですが、彼らの中に根付いた現政権と保守派の全体に対する落胆や憎悪というのは、最終的に11月の大統領選まで消えないでしょう。」

 

ガザ攻撃反対運動の学生テントがコロンビア大学のメインキャンパスを埋め尽くしている(今月22日) Caitlin Ochs-REUTERS

 

小松 仁