MIT Tech Review: 「洗脳」の奇妙な歴史——偽りと真実が交錯する物語 (technologyreview.jp)

 

「MIT Tech Review: 「洗脳」の奇妙な歴史——偽りと真実が交錯する物語」 (technologyreview.jp)がちょっと面白い。

 

アナリー・ニューイッツは、2024年6月出版予定の『Stories Are Weapons: Psychological Warfare and the AmericanMind(物語は武器:心理戦と米国人の心)』の著者。

 

「洗脳とは、昔から最適化の幻想だった。軍事専門家らは、拷問で敵を屈服させることはできるが、それには数カ月を要し、暴力的で厄介な作業になることが多いと知っていた。迅速で科学的根拠に基づく尋問方法であれば、時間を節約し、大規模に展開できる可能性がある。1953年、米国中央情報局(CIA)はその夢のために数百万ドルを投資することになった。記憶の抹消、マインドコントロール、そして「真実血清」薬に専念した大学や研究プログラムへ現金を注ぎ込んだプロジェクト「MKウルトラ(MK-Ultra)」計画の始動である。CIAは、ソビエト連邦や中国のライバルが世界中で共産主義を広めようと人々の精神を操っていると懸念していた。そのため、CIAは反撃のためならほぼ、どんなことでも試す覚悟があった。どれほど奇妙に思える作戦でも採用された。」

 

「「洗脳」は、海外の敵からの本物の脅威というよりも、ほぼあらゆる種類の悪行のための策略または口実と捉えられるようになった。1976年、新聞発行人ウィリアム・ランドルフ・ハーストの孫娘であるパティ・ハーストが銀行強盗の罪で裁判にかけられた。この時、米国の過激派組織であるシンバイオニーズ解放軍に誘拐されていた被告人(パティ・ハースト)は拷問を受け、洗脳されていたと専門家が証言したが、裁判官はそれを信じようとしなかった。パティ・ハーストは有罪判決を受け、刑務所で22カ月間を過ごした。これは、洗脳というものへの国民の熱狂に終わりを告げる出来事となった。そして専門家らは、マインドコントロールには科学的根拠があるという考えを否定し始めた。」

 

「マインドコントロールについての大衆の見解は、最先端のテクノロジーによっても変えられている。2017年にネイチャー誌に掲載された公開書簡で、研究者と倫理学者の国際グループがある警告を発した。脳コンピューター・インターフェイスのようなニューロテックは「人類が、人の精神プロセスを解読できるようになり、意思、感情、決断の根底にある脳メカニズムを直接操作できるようになる世界へと歩を進めていることを意味する」というものだ。まるで、MKウルトラの願い事リストのようである。同国際グループは、神経学的ディストピアを食い止めようと、企業や大学がこのテクノロジーの強制的使用を将来的に防ぐことができるようにいくつか重要な方法の概要を述べた。彼らが提案したのは、例えば、企業が人々の個人的思考を調べることのないようにする法律や、人々の性格を変えたり神経学的機能を正常に近づけたりするための脳インプラントの使用を禁じる規制の必要性である。」

 

「多くの神経科学者は、そうした懸念について大げさだと感じている。そのうちの1人であるメリーランド大学の認知科学者、R・ダグラス・フィールズ博士は、否定派の意見をクアンタ誌のコラムで総括した。脳には、我々が認識しているよりも可塑性があり、ニューロテックによるマインドコントロールがスイッチを入れるように単純なものになることはない、と主張した。洗脳について研究しているもう1人の神経科学者、キャスリーン・テイラー博士は、より慎重な見方をしている。著書の『Brainwashing:The Science of Thought Control(洗脳:思考制御の科学)』(2004年刊、未邦訳)で、同博士はニューロテックと薬剤が人々の思考プロセスを変える可能性について認めている。しかし、最終的には、「洗脳とは、 何よりも社会的な、また政治的な現象」 と結論付けている。」

 

フランク・シナトラが主演した1962年の『Manchurian Candidate(邦題:影なき狙撃者)』では、高度な心理学的手法で疑うことを知らない米国人戦争捕虜を暗殺者に変える中国人共産主義者の物語がスリル満点に描かれた。

ALAMY

 

Shirley Chong

 

小松 仁