MIT Tech Review: 世界初のCRISPR療法、 その知られざる誕生物語 (technologyreview.jp)
「MIT Tech Review: 世界初のCRISPR療法、 その知られざる誕生物語」がちょっと面白い。
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]
米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
「CRISPR技術を利用した世界初の治療法が英国と米国で相次いで承認された。対象となった鎌状赤血球症の治療は長い苦難の歴史をたどったが、思わぬ幸運もあった。」
「世界初の商用遺伝子編集治療が、鎌状赤血球症患者の人生を変え始めようとしている。 「Casgevy(キャスジェビー)」と呼ばれるこの治療法は、2023年11月に英国で承認され、米国でも12月8日に承認された。
ヴァーテックス・ファーマシューティカルズ(Vertex Pharmaceuticals)が米国で販売する予定のこの治療法は、ノーベル賞を受賞した分子ハサミ「CRISPR(クリスパー)」を利用している。CRISPRについては、その仕組みを伝えるために「スイス・アーミーナイフ」や「分子メス」「DNAコピー&ペースト」など、記者たちが競ってさまざまな例えを考え出してきた。実際、CRISPRは革命的である。簡単なプログラムで、科学者が狙った正確な位置でDNAを切断できるからだ。」
「しかし、CRISPRでどこを狙うのか? それこそが、鎌状赤血球症に関するブレークスルーの、あまり知られていないストーリーだ。鎌状赤血球症は、血液中で酸素を運ぶ分子であるヘモグロビンの異常が原因で発症する病気だ。しかし、ヴァーテックスとそのパートナー企業である「クリスパー・セラピューティクス(CRISPR Therapeutics)」は、ヘモグロビン分子の変形を引き起こす突然変異の原因遺伝子を狙うのではなく、一種の分子バンク・ショットを実行する。つまり、子宮内にいるときは持っているが、成人になると失われてしまう「胎児ヘモグロビン」のスイッチをオンにする編集作業である。」
「ワトソン医師は正しかった。しかし、そのような切り替わりの仕組みと、その戻し方が分かるまでには、さらに60年の時間が必要だった。それらの多くは、ハーバード大学医学大学院の研究者であるスチュアート・オーキン教授の研究室で発見された。オーキン教授が最初の論文を発表したのは1967年のことだ。それ以降、分子生物学がまだ黎明期だった頃から、いくつもの年代にわたって血液疾患に関する研究に取り組んできた。」
「8年前に最初にこの治療法の開発に着手したバイオテクノロジー企業、クリスパー・セラピューティクス(後にヴァーテックスがパートナーとして加わる)で最高科学責任者(CSO)を務めたビル・ランドバーグによれば、同社の鎌状赤血球症プロジェクトはオーキン教授の発見を直接利用したという。「スチュアートの役割は正しく評価されていません。スチュアートの研究室は数年の間に一連の実験に取り組み、実験のたびに新しい学生が1人携わりました。そして、それらの実験のどれもが『サイエンス』誌や『ネイチャー』誌で発表されました。それが、最終的に私たちが使うことになった特製ソースでした」。」
「オーキン教授は、この治療法を迅速に開発した各社を評価するのにやぶさかではない。開発には約8年しかかからなかった。しかしオーキン教授は、各社が完璧な編集技術を持っていたことが助けになったと考えている。「私にとって、すべての発見は2015年までに終わっています。私たちは、そのやり方を確立しました。あとは、どのように実行するかという問題でした」と、オーキン教授は言う。「各社は完璧に実行しました。どの企業でもできることではありません」。」
1985年、研究室で血液疾患患者のDNAを分析するスチュアート・オーキン教授。
BOSTON CHILDREN’S HOSPITAL
小松 仁
