伊佐山元氏「社員の3.5%が変われば組織は変わる」:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)
日米の企業の事情に詳しいベンチャーキャピタリストでWiL代表の伊佐山元さんが、日本企業がSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を実現するために実行すべき企業変革の要諦について話している「社員の3.5%が変われば組織は変わる」が興味深い。
聞き手は、サステナビリティ経営の近未来を描いた 『2030年のSX戦略 課題解決と利益を両立させる次世代サステナビリティ経営の要諦』 共著者の磯貝友紀氏。
「イノベーションを生み出すにはどんな思考が必要なのか。その第1ステップは「正しい課題設定」です。
つまり、今、世界で起きていることや大事だと思われていることを把握すること。それが分からなければ、せっかく高い技術力を持っていても、その使い方や事業での生かし方が見えてこない。当たり前のことと思われるかもしれませんが、ほとんどの企業は「正しい課題設定」が不十分です。」
「サステナビリティに関しては、欧州が先行して動き、当初、米国は様子見で動きは鈍かったのですが、世界がそちらに動き出したと察知すると急に方向転換を図り、お金を集中的に投資し、例えば電気自動車などの産業分野を席巻してしまいました。
また、気候変動のマイナスの影響が顕在化していることも、米国のサステナビリティへの動きを加速させている理由の一つです。ハリケーンによる洪水が多発しており、インフラの復興コストや保険会社の負担が膨らみ、手を講じないと大変なことになるという不安が広がっています。
逆に、日本のインフラは安定していて災害にも強いため、気候変動への危機感が米国に比べると弱いのかもしれません。災害に強いという日本の長所が、間接的にサステナビリティ経営への方向転換を阻んでいる面があると思います。」
「初めのステップは、海外から日本を見ることです。国内からだけでは、自社や日本の強みも見えてきません。海外に拠点を移さなくても、世界中の有識者と定期的に意見交換したりテクノロジーの海外イベントに出席したりするなど、自ら動いて優先課題を肌で感じるべきです。
サステナビリティ分野においては、日本を評価したり興味を持ったりする外国人は想像以上に多い。こうした外国人たちを自社の味方につけることも意識すべきです。日本国内ですべて完結させようとする発想はやめた方がいい。」
「組織を変革するには、メンバーの過半数の意識を変えないといけないと思いがちですが、そうではないんです。3.5%の人の意識を変えれば、組織は変わります。
ハーバード大学ケネディ行政大学院のエリカ・チェノウェス教授は、過去の革命や市民運動などを調査し、人口の3.5%が非暴力で立ち上がれば、社会が変わることを見いだし、「3.5%ルール」と名付けました。
ここから考えると、恐らく企業も3.5%の人の意識が変われば、その人たちから周りも影響を受けて、組織全体が変わっていくことが期待できます。例えば、1万人の会社であれば、350人の意識を変えればいいわけです。5000人の意識を変えるのはかなり大変ですが、350人ならできそうだと思いませんか。」
「動きながら考えることに加えて、イノベーションを生み出すには「イエス・アンド思考」が不可欠です。
例えば、今、アフリカのビジネス市場が急拡大しています。米国のビジネスパーソンなら、「社会課題が多い分、先進国ではできない社会実験ができて、新しい産業を起こせそう。だから、アフリカは面白い。ビジネスにトライしてみよう」と発想します。けれども、日本のビジネスパーソンの多くは「面白いけど、政情が不安だよね」とできない理由をいくつも挙げがちではないでしょうか。これは「イエス・バット」思考です。
要は、一つの事実に対する見方の問題です。コップに入った半分の水を見て、半分も入っているのか、それとも半分しか入っていないのか。「イエス・バット思考」を「イエス・アンド思考」に変えるだけで、目の前に見える世界が大きく変わります。
未知の領域は明確な答えがなく、リスクばかり見えてしまいますが、脳のスイッチを「イエス・アンド思考」に切り替えて、実際にトライしてみると、もちろん失敗することもありますが、意外にできてしまうことも多い。シリコンバレーの起業家たちを見ているとそれを実感します。」
「もう一つ重要なのは「変化を常態化すること」です。これは、日々のちょっとした心がけでトレーニングできます。私の場合、オフィスに行くときに、毎回道を変えたり、一駅前で電車を降りたり、左手で食事をしたりと、ルーチン的に惰性でやっていることを変えるように心がけています。
変化は脳にとって刺激になります。毎日違うパターンを繰り返していくうちに、恐らく脳の働きが活性化すると思うのですが、同じものを見ても他の人がなかなか気付かない斬新な着眼点を持てるようになります。」
伊佐山元(いさやま・げん)氏 WiL代表。
東京大学卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。米国大手ファンドDCMを経て、2013年WiLを設立。シリコンバレー在住のまま、日本の起業家、海外ベンチャーの日本進出を支援することで、新しいイノベーションのあり方やベンチャー育成の仕組みを提供する(写真:鈴木愛子)
磯貝友紀(いそがい・ゆき)氏
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナー。
2003年より民間企業や政府機関、国際機関にて東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手がける。2011年より現職。著書に『SXの時代』『2030年のSX戦略』(共著、いずれも日経BP)
小松 仁

