東京財団政策研究所主席研究員の柯 隆(か・りゅう)さんが「深層中国第7回『人民元デジタル化の挑戦と課題』」で紹介している内容がちょっと面白い。
「スマホ決済はあくまでも支払い手段のデジタル化であり、デジタル通貨ではない。要するに、スマホ決済はクレジットカードやデビットカードのようなもので、決済とともに、自分の銀行口座から店の銀行口座に代金を移動させる必要がある。それに対して、デジタル通貨は基本的に現金での支払いと同じように、個人のウォレットから店のウォレットに買い物の代金を直接、デジタル通貨で支払いできる。銀行を介する必要はない。」
「クレジットカードやデビットカードを使った決済の回数は全体の7%、金額にして23%だった。それらに対して、スマホ決済の回数は66%、金額にして59%に達した。これらの結果は、中国人の多くがデジタル決済ツールの利用に慣熟していることを指しているといえるかもしれない。ちなみに、2021年末現在のデータによると、中国のインターネット利用人口は9億人を超えているという。」
「中国人民銀行(中央銀行)によると、デジタル人民元は現金の人民元と同じように貨幣の三つの基本機能(価値尺度、流通手段、価値貯蔵手段)を持ち合わせるものである。そして、デジタル人民元は現金と同じように人民銀行の負債になる。一方、信用膨張の可能性はないといわれている。中島真志(日本の金融学者。博士。麗澤大学経済学部教授)によると、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)は『中央銀行→個人』の直接発行型と『中央銀行→商業銀行→個人』の間接発行型があるといわれている。中国人民銀行の白書では、中国のデジタル人民元は中国人民銀行が集中管理する『二層運営』、すなわち、間接発行型になるといわれている。しかも、デジタル人民元と現金の人民元は長期にわたって併存すると強調されている。要するに、デジタル人民元が発行されたからといって、現金の人民元が使われなくなるという心配はないということのようである。」
「日本では、なにか新しいことを試みるとき、まずルール作りあるいはルールの設計から始めるが、完璧なルールができるまで時間がかかってしまうことがある。それに対して、中国では、新しいことにチャレンジする際、まずは実証実験による検証を行うことが多い。デジタル人民元はすでに実証実験の段階に入っている。中国人民銀行の発表によると、デジタル人民元のシステム設計はすでに完成しており、実証実験を行って新しい問題が見つかれば、システムをさらに改善していくという。考え方としては間違っていない。」
「デジタル人民元の実験は、深圳、蘇州、成都、雄安と、冬季オリンピック・パラリンピックで行われている。実験のなかでとくに注目されているのは、技術の設計の適正性、安定性と安全性、使い勝手の良さ、デジタル人民元の設計に対する社会の理解などといわれている。実験段階で、デジタル人民元は、スーパーやコンビニなどの小売り、レストラン、文教施設、病院、交通機関、政府機関などで使うことができる。デジタル人民元の使用を促すために、給与の一部や年金などがデジタル人民元で支給されているケースもある。ただし実験区での実証実験では、デジタル人民元の利用状況は予想よりも広がっていないようだ。」
「デジタル人民元は基本的に現金(マネーサプライM0)と同じであり、専用のウォレットにあるデジタル人民元に対しては利息が付与されない。この点はスマホ決済と大きく異なる。たとえば、アリババのアリペイの場合、事前に自分のアカウントにお金をチャージして、それを使って買い物ができるだけでなく、残高について利息が支払われる。おそらく多くの中国人は既存のスマホ決済に慣れており、その残高に応じて利息が付与されるため、わざわざデジタル人民元を使わなくてもいいと感じているのかもしれない。換言すれば、デジタル人民元を普及させるには、利便性や収益性を高めないといけないと思われる。」
深層中国第7回「人民元デジタル化の挑戦と課題」 | 研究活動 | 東京財団政策研究所 (tkfd.or.jp)
IT起業研究所ITInvC 代表小松仁
