MIT Tech Review記事「『細胞超越性』への一歩か? 迷路を解く、大腸菌の 分散コンピューティング」がちょっと面白い。
「種類の異なる大腸菌が協力し合って迷路問題を解くという、驚くべき研究が実施された。生物による分散コンピューティングが利用できるようになれば、農業や医薬品など幅広い分野の複雑な問題解決に役立つかもしれない。」
「実験では、研究者はまず大腸菌を16本の試験管に入れ、それぞれに異なる構成の化学迷路を加えて、大腸菌を放置し増殖させた。48時間後、大腸菌が迷路の明確な道筋を見つけられなかった場合、すなわち必要な化学物質に出会わなかった場合には、大腸菌が光ることはない。一方で、正しい化学物質の組み合わせに出会った場合には、対応する回路が『オン』になる。大腸菌は一斉に黄色、赤、青、ピンクなどの蛍光タンパク質を発現し、解決策を示すのだ。『道筋、つまり解決策があれば、この細菌は光るのです』とコルカタのサハ核物理学研究所の生物物理学者であるサングラム・バーグ准教授は語る。」
「バーグ准教授は、こうしたバイオ・コンピューターが、暗号手法やステガノグラフィ(情報隠蔽技術)に役立つことを想定している。ステガノグラフィとは、迷路を使ってデータをそれぞれ暗号化し、隠蔽するものだ。しかし、その意味するところは、このような応用に留まらず、合成生物学が持つより大きな野望にまで及んでいる。」
「合成生物学のアイデアは1960年代にまで遡るが、2000年に合成生物学回路(具体的にはトグルスイッチとオシレーター)が作られたことにより、合成生物学の分野は具体的なものとなった。この合成生物学回路により、細胞をプログラムして特定の化合物を作らせたり、ある環境下で賢い反応をさせたりすることが可能になったのだ。」
「マサチューセッツ工科大学(MIT)の合成生物学者であるクリス・ボイト教授(バーグ准教授の研究結果を発表したACSシンセティック・バイオロジー誌の編集長)は、分散コンピューティングは合成生物学の進むべき方向であると考えている。
マドリード工科大学の合成生物学者であるアンヘル・ゴニ・モレノ博士は、このアプローチが最終的には『細胞超越性』と彼が呼ぶものになると考えている。この『細胞超越性』という言葉は、ある領域において量子コンピューターが従来のコンピューティングの能力を超えることを意味する『量子超越性』(現在は『量子卓越性』と呼ばれることもある)と意図的に関連付けられている。ゴニ・モレノ博士によれば、このように進化したバイオコンピューターは、農業生産の向上(状況に応じて化学物質の生成を調整する土壌細菌など)や、病気の治療法の探索などの分野で、優れた問題解決能力を発揮する可能性があるという。
ただ、大腸菌がネットサーフィンやP対NP問題の解決に役立つとは思わない方がいい。こうした領域には、やはり昔ながらのコンピューターが必要である。」
*P対NP問題と知の限界
答えを見つけるのは難しいかもしれないが答えがあっているかどうかは素早くチェックできる問題(ジグソーパズルのような問題)のことをNP問題,簡単に素早く解ける問題のことをP問題という。「素早く解けるP問題はすべて,答えを素早く確認できるNP問題である」ことが証明されているが,その逆はどうだろうか。つまり「答えを素早く確認できるNP問題はすべて,素早く解けるか?」──これが「P対NP問題」だ。
Andrea Chronopoulos
MIT Tech Review: 「細胞超越性」への一歩か? 迷路を解く、大腸菌の 分散コンピューティング (technologyreview.jp)
https://www.technologyreview.jp/s/260782/an-e-coli-biocomputer-solves-a-maze-by-sharing-the-work/
IT起業研究所ITInvC 代表小松仁
