MIT Tech Review「登 大遊『イノベーションは“いんちき遊び”から生まれる』」がちょっと面白い。

 

「シン・テレワークシステムは、2020年4月に出された新型コロナによる緊急事態宣言下でも通勤せず家で仕事が続けられるように、会社のパソコンに自宅からアクセスできるようにと開発したシステムです。NTT東日本とIPAが共同で提供しています。ユーザーは、会社のPCと自宅のPCに専用のソフトをインストールするだけで、登録不要・無料で利用できます。2021年8月現在でおよそ17万ユーザーが使っています。8月初めには、自宅PCに専用ソフトをインストールせずに使える『シン・テレワークシステム HTML5 版 Web クライアント』も公開しました。」

 

「昨年4月の最初のバージョンの公開までにかかった開発期間はおよそ2週間。IPAとNTT東日本の人間が集まり、秋葉原でラズベリー・パイ(Raspberry Pi)を買ってきてつくり上げました。当初は50台のラズベリー・パイで構築したので、ケーブルその他含めてもかかったコストは約65万円。ランニングコストは1人当たり月額5〜15円と見積もっています。」

 

(ラズベリーパイは、2012年にイギリスのラズベリーパイ財団によって、教育目的で開発されたワンボードコンピュータです。$30程度の低価格と、便利なライブラリ、そして世界中の人が多くの作例をインターネットで共有した事により、一躍IoT時代の代表的なプラットフォームとなりました。)

 

「いま日本は『デジタル敗戦』などと言われたりしていますが、そういう人が1万人いれば、マイクロソフトやグーグル、アマゾン、シスコなどがつくり出してきたようなものをつくれるはずです。それが今できていないのは、『いんちきな試作』をする場がないからだと思っています。」

 

「『いんちき』というのは、すでにあるその道のプロがとるような安定して同じ結果が出る、既存の、正しいやり方ではなく、破綻することがわかっている間違ったやり方でもない、枠から外れた新しい発想や手法のことです。既存のやり方は期待した通りの結果が出るのですが、成長率は0%でそれ以上にはなりません。

例えばグーグルが1998年に検索エンジンを始めた時のサーバーは、メーカーが売っているちゃんとしたサーバーではなく、日本でいう秋葉原のようなところで部品を買ってきて自分たちでつくったものでした。そういう『いんちき遊び』を、大学で彼らははじめにやっていた。」

 

「ほかにも歴史を調べると、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックはアップルを創業する数年前に、違法に無料通話を可能にする電話会社ハッキング装置をつくっています。それを通じて、コンピューターや通信に詳しくなった。アップルの最初のコンピューターも『いんちき』の産物だったわけです。

ユニックス(UNIX)やマイクロソフトなど、米国の『すばらしい』と称される技術やICT企業の成り立ちには、似たような逸話がたくさんあります。」

 

「シリコンバレーに匹敵するようなリソース、つまり人やお金は、日本ではスタートアップよりも大企業の中にあるんじゃないかと自分は思っています。

 日本の大企業は、1990年代くらいまではコンピューターや通信機器などハードウェアをつくっていたんですよ。もっとさかのぼると、造船や製鉄に始まり、繊維、工作機械、エレクトロニクス、化学、建設などあらゆる産業技術を外国から吸収し、それを超える発明をして世界トップクラスの製品を生み出していました。でも、それで儲かってしまったんですね。自分で考えるのはだるいから、他のところに出資しよう、外注しよう、というふうになった。

いま、多くの企業において、本当のところがどうなっているのかをわかっている人がいない状況になっている。これはまずい状況で、みんな危機感を持っています。」

 

「『いんちき遊び』をやることは重要ですが、出来上がったものがいんちきでは駄目なんですね。そうならないために押さえておきたい要素が2つあります。1つは、継続可能であること。ずっと動くもので、価値を継続できること。もう1つは、安定して動作すること。私が審査を担当する『通信』の領域では安定性がとても重要です。」

 

登 大遊(Daiyu Nobori)

IPAサイバー技術研究室室長

筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了。博士 (工学)。筑波大学入学時に、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「未踏ソフトウェア創造事業 未踏ユース部門」に採択、開発した『SoftEther』で天才プログラマー/スーパークリエータ認定を受ける。現在、IPAサイバー技術研究室室長、ソフトイーサ株式会社代表取締役、筑波大学産学連携准教授、NTT東日本特殊局員。

 

 

MIT Tech Review: 登 大遊「イノベーションは“いんちき遊び”から生まれる」 (technologyreview.jp)

 

IT起業研究所ITInvC 代表小松仁