経済産業研究所RIETIの鶴 光太郎プログラムディレクター・ファカルティフェローの「ビデオ会議、対面に代わるか」(日本経済新聞 経済教室に掲載)が面白い。

 

https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/tsuru/47.html?fbclid=IwAR0u-3FrA-YQOyVDHoP0W-ESp-6myuBLpzrQjMtkwxnealfedjpWDNOeYPk

 

・対面接触の経済学ともいうべき分野の第一人者としては、経済地理学者であり、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマイケル・ストーパー教授が挙げられ、2004年の共著論文では、経済における対面接触の4つの特徴について述べているようだ。

 

第1は情報伝達技術の側面である。対面接触であれば、対話は高頻度かつ瞬時のフィードバックが可能だ。これは電子メールと対比すれば明らかであるという。

 

第2はモラルハザード(倫理の欠如)などの機会主義的な行動を抑制し、信頼関係を築くという側面である。面と向かって嘘は言いづらいし、対面接触によって相手を注意深く観察し、動機、意図、本音をより正確に察することができ、共通の理解や親近感が生まれるという。

 

第3はスクリーニング(ふるい分け)とソーシャリゼーション(社会の規範や価値観を学び、社会における自らの位置を確立すること)の側面である。対面接触はコストが高いだけに、そうした接触が必要なグループのメンバーを選ぶには、試験や資格要件だけではなく、仲間内でのみ共有できるようなローカルで文脈依存的な暗黙知が欠かせないという。

 

第4は対面接触の際のパフォーマンスで得られる快感の側面である。例えば、プレゼンテーションで自分がその場にいる誰よりも優れていることを示したいという競争心・ライバル意識を生む効果だという。

 

・ビデオ会議が対面接触にどこまで迫ることができるかについては、今後の研究の進展を待つ必要があろうが、現時点では以下のことが指摘できるという。

 

まず第1に、情報伝達の手段という点ではビデオ会議は成文化しにくい暗黙知や表情、ボディーランゲージなどをかなりの部分伝えられることだ。そもそも若者のスマートフォン活用をみれば、複雑な文脈依存型の情報の交換はデジタルな世界でも十分可能なことが分かる。また、信頼関係の構築やメンバーを選ぶためのスクリーニングも、オンライン面接でみられるようにかなりの部分がビデオ会議で代替可能と考えられる。ビデオ会議を使う側の意識改革が重要であろうという。

 

一方、コストをかけて対面接触することで関係の「絆」をつくるという機能は、コストという面では逆に効率的であるビデオ会議で代替することはできない。しかし、コロナ危機で対面接触のコストが様々な意味でかなり高まってしまった状況を考えると、こうした関係構築手法が見直される可能性もあるという。

 

対面接触の役割で代替が最も難しいと考えられるのは、ソーシャリゼーションである。新たな組織のメンバーとなり、そこでの価値観や流儀を学びながら仲間になっていくプロセスを、ビデオ会議で実現するためのハードルは相当高そうだ。これは、今年の社会人1年生や大学1年生が、まさにいま直面している困難である。それをどう乗り越えていくか、我々のアイデアと技術を活用する知恵が問われているというのは尤もだと思う。

 

IT起業研究所ITInvC代表 小松仁