Significant Styleで「スタートアップ用語考 SaaS企業の成長を先取りする『PSR』」のテーマで議論されている内容が面白い。

Post-IPOスタートアップの価値を評価する指標として浸透しつつある「PSR」。

従来の株式投資ではマイナーであったこの指標が使われるようになったのは、なぜだろうか? 

スタートアップに多いSaaSビジネスの構造を紐解きながら、その背景について考察している。

 

https://signifiant.jp/articles/saas-psr/

 

朝倉祐介(シニフィアン共同代表)

小林賢治(同上)

村上誠典(同上)

 

・PSRは「プライス・セールス・レシオ」の略で、年間売上高に対して時価総額が何倍か、あるいは一株あたり売上高に対して株価が何倍かを表わし、株価や時価総額の水準を示す指標。

 

・SaaSの勃興で急激に使われるようになった指標の1つ。便宜上、これまでよく使っていた「PER」(株価収益率)、「プライス・アーニングス・レシオ」は、基本的に黒字基調であることを前提とした指標。ただ、成長途上のSaaS企業は先行投資で赤字となっている場合が多いので、代わりに年間売上高を用い、時価総額の水準を算定するということだ。

 

・テクニカルな話だが、コーポレートファイナンスの教科書では本来、売上高で割るべきはEV(企業事業価値)だが、便宜上、時価総額で割ってしまえと、なぜなら成長期のスタートアップにとって、キャピタルストラクチャー(資本構成)はそんなに重要ではないし、これだけSaaSが勃興してくると、そうして見た方が簡易で分かりやすいということで、便宜上、一般的には時価総額が分子に使われているのかと思っている。

 

・一般の投資家にとってより馴染みのある指標は、恐らくPERだろう。年間の最終利益に対して、時価総額は何倍かを表す指標だ。「Aという業種では、PERが15倍程度が株価の適正水準」といった目安として使われる。

長いこと金融の世界に携わっている人の中には、PSRで株価の水準を論じることに対して懐疑的な人もいる。

 

・例えば、当期純利益のマージンが10%のビジネスモデルがあったとして、PSRが10倍なら、PERは100倍ということになる。つまり、10倍のPSRは100倍のPERに匹敵するほどの成長と利益化を先取りしているに等しいということだ。

 

・ここ数年、わざわざPSRを用いる機会が多くなった理由を考えると、1つには、単純にボトムが赤字の成長企業が増えたために、PERで算定しようがないので仕方なくPSRを使い始めたという側面もあるのではとも思う。

 

・最近のスタートアップだと、NTM(Next Twelve Mont)、「次の12ヶ月間の売上高見通し×PSR」がよく使われる。PSRは成長率が高い会社ほどマルチプルの値も上がる傾向があるため、成長率が高い会社のバリュエーションを試算する場合、NTM、次の12ヶ月の数字も、それに乗じられるPSRも高くなるので、実はバリュエーションが二重に高くなりやすいという構造にある。

 

・スタートアップで重視されている指標の1つに、MRR(月間経常収益)がある。上場後の機関投資家も、MRRがいくらの会社なのかというところにより注目するし、それが高い会社であればあるほどプレミアが乗る。

 

・世のSaaS企業のうち、何社くらいが十分なステディステートマージンを達成できるのか。個人的には3分の1程度だろうと思うこともあり、どこかでクラッシュするのかなとは思う。ただ勝ち組企業はその後、もう1回戻るとも思う。淘汰が進みながらも、勝ち組企業の中には、5年後もPSRのマルチプルが高い会社があるのではないだろうか。

 

IT起業研究所ITInvC代表 小松仁