今年のノーベル化学賞はゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」を開発した二人の女性研究者が受賞したが、Emerging Technology Review記事が面白い。
受賞理由は遺伝子編集技法の開発とし、CRISPR-Cas9を「遺伝子を切るハサミ(Genetic scissors)」と表現し、この技法を使うことでヒトや動物や植物の遺伝子を容易に書き換えることができ、ライフサイエンスの分野で革新的なインパクトがあると評価しているようだ。
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出典: Nobel Media AB 2020
出典: The Royal Swedish Academy of Sciences
・CRISPR-Cas9はバクテリアなど原核生物(Prokaryote)が持つ免疫機構で、遺伝子を切断する機能を持つ。切断された遺伝子は自己修復する機能があり、再び繋がるが、その際に元の配列とは異なる配列で繋がる。このため、この遺伝子が機能しなくなる。また、接続した部分に別の配列を付加すると、遺伝子の配列を編集できる。これにより、新たな機能を持つ遺伝子を作り出すことができる。つまり、CRISPR-Cas9で特定の遺伝子の機能を止め、また、新たな遺伝子を生成できる。
・CRISPR-Cas9により全ての生き物の遺伝子を自在に編集でき、ライフサイエンスに革命をもたらす。農水産物をCRISPR-Cas9で改良し、乾燥に耐性のあるトウモロコシや血圧を下げるトマトの開発が進んでいる。また、家畜の遺伝子を編集し、雄雌を産み分ける技術の開発が進んでいる。また、これを医療に応用し、ガン治療(CAR T-cell Therapy)や遺伝性貧血(鎌状赤血球症、Sickle cell disease)の治療で効果をあげている。一方、ヒトの受精卵をCRISPR-Cas9で編集し、他人より優れた能力を持つ赤ちゃん「CRISPR Baby」を生むことに関してはコンセンサスは無く、各国が独自で研究を進め、世界で混乱が広がっている。
・CRISPR-Cas9でヒト受精卵の遺伝子を編集することが危険な理由は、その技術が未成熟なことにある。CRISPR-Cas9は生まれたての技術で常に正確に遺伝子を編集できるわけではない。意図しない個所の遺伝子を書き換えるケース(off-target edits)が少なくない。対象とする遺伝子(CCR5 Gene、HIV発症に関与する遺伝子)だけでなく、その他の遺伝子も書き換えられたとされる例もある。未熟な技術でヒト受精卵の編集をすることの危険性が指摘されるなかで、各国でこの研究が進んでおり、国際的な規制やルールの制定が求められている。しかし、CRISPR-Cas9で優秀な国民を生み出すことは国の繁栄や安全保障と深くかかわり、世界共通の規制を制定することは容易なことではない、というのはよく理解できる。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁

