キャノングローバル戦略研究所CIGSのInternational Research Fellow 櫛田 健児さんが、「米国コロナ最前線と合衆国の本質」と題して論じている内容が興味深い。

 

米国コロナ最前線と合衆国の本質(1) 〜残念ながら日本にとって他人事ではない、パンデミックを通して明らかにするアメリカの構造と力学〜

https://www.canon-igs.org/column/network/20200609_6471.html

米国コロナ最前線と合衆国の本質(2) ~米国のデモや暴動の裏にある分断 複数の社会ロジック〜

https://www.canon-igs.org/column/network/20200611_6484.html

 

 

・カーネギーメロン大学の研究者たちが驚くべき発見を明らかにした。ツイッターで「アメリカ再開」をサポートしているアカウントの過半数がBot(ボット、すなわち人に見せかけたソフトウェア。機械による自動発言システム)だったのである。1月からの20億ほどのツイートを分析した結果、トップ50のインパクトが高いリツイーターのうち実に80%、そしてトップ1000のリツイーターのうち62%がBotだったのである。

 1月以降、人間かもしれないがBotによるアシストがあると思われるツイート数が全体の6割超、そしておそらく完全にBotだと思われるツイートが3割超に上っているという。

 

・しかも、米国の混乱に拍車をかけて、米国が弱まることで得をする外国政府の介入である可能性も否定できない。アメリカとは構造的に密接な関係である日本にとって、アメリカに対する本質的な理解がない状態では、今後の日本の国内対応、経済政策などに大きな落とし穴が待っている可能性があるという。

 

・この緊急事態と全く同じタイミングで、アメリカは劇的な人類の科学技術の進歩を成し遂げた。イーロンマスク率いるSpaceXの民間ロケットがNASAと手を組み、宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに無事送り届けたのである。大気圏に再突入して地球に戻るまでは完全には安心できないが、この民間企業は、2008年に3度の失敗が続き、4度目のラストチャンスに全てをかけていた。再利用可能で従来に比べて飛躍的にコストを下げるという無謀なチャレンジを、既存のプレーヤーの多くが無理だとの前評判に反し、アメリカのイノベーションの中枢であるシリコンバレーのエコシステムでみごと大成功を収めた。強烈なビジョンを持った海外生まれのリーダーが、世界選抜のメンバーと一緒に成し遂げたのである。大人になってからアメリカ国籍を得たイーロンマスクが、シリコンバレーのエコシステムの下、一代で大成功を収めた上で米政府と組み人類の発展と進化に大きく貢献した。

 

・青(民主党、主に都市)と赤(共和党、主に地方)では、世界観、価値観、教育水準、経済状況、そして健康状態までもがかなり違うのである。体験している「国」がまるで異なり、見えている世界が全然違うのだ。日本ではなかなか想像しにくい格差のレベルと価値観の違いである。

 

 

・価値観の違いだけではなく、健康状態をみると、アメリカ国内では地域により驚くほどギャップがある。赤が濃いほど肥満率が高く、最も濃い赤が31.9%43.9%、その次の赤が30.2%31.8%となっている。南部のアラバマ、ミシシッピー、ルイジアナ州が特に深刻で、東海岸の南部に沿った地域も真っ赤である。西では内陸の方に赤がある。三つのオレンジ色は26.3%30.1%を示しており、国の中央の地域が目立つ。ネバダ州やワシントン州の南部と内陸である。これら肥満率の高いのは、ほとんど共和党が勝利した州である。

 

 

・シリコンバレー、サンフランシスコ、ニューヨークやボストンなどではワンベッドルームのアパートの賃貸料が月40万円以上するが、このような状況は他の地域では全く考えられない。他の地域では豪邸が買える値段を払っても、シリコンバレーでは小さなアパートすら買えないので、高い給料への要求が強くなる。高給を取れる職に就ける人とそうでない人では体験できる世界が全く異なる。例えば、スタンフォード大学近郊の住宅地には2億円以下の一戸建ては基本的にない。しかもそれらは豪邸ではなく、別の州では10分の1以下で購入できるような、水回りが怪しく内装も古いものである。外から見てもボロボロの家が3億円ぐらいで売れたりするのである。このような世界は他の地域から見たら、クレイジーそのものである。

 

・そして、このような所得が高い職で稼いだ人たちが、ITの発展によりテレコミュートなどで遠方から仕事ができるようになり、安くて大きな物件を求めて他の地域に移り住み始めると、地価が上がり元々そこにいた人たちは住めなくなってしまうのである。ただし、地価が安くても教育水準などの問題もあるので、その地域の価値観が合わないと、住もうとは思わない人もかなり多い。所得が高いところで働いている人たちはその地域の物価も押し上げる一方で、そうではない地域との世界観のギャップも広がっていく。

 

・極め付けは、教育と所得の格差である。2008年のリーマンショックから始まった不況以降、アメリカ経済は回復したが雇用格差は劇的に広がった。四年制の大卒以上の人の雇用はグングン伸び、二年制か専門職の学位を持っている人の雇用も2013年からプラスに転じた。しかし、高卒以下の人にとっては、条件は回復するどころか雇用がどんどん無くなっていったという。

 

IT起業研究所ITInvC代表 小松仁