iPS細胞による目の難病治療の世界的第一人者として知られる医師で医学博士の高橋政代氏は、iPS細胞を培養した細胞シートによって根治させる研究と普及に取り組む医療系ベンチャーのビジョンケアに、昨年、理化学研究所から代表取締役に転じているが、「新型コロナは幕下級…」これから来る"横綱ウイルス"の出現に備えろと話している内容が興味深く参考になると思う。

https://president.jp/articles/-/34370

 

 

・(なぜ日本では死者や重症者が増えないのか。)

「日本が欧米と比較して重症化、死亡者が少ない原因はまだ解明されていません。欧米諸国のような挨拶時のハグやキス、握手の習慣がないこと、手洗いの重要性が早期に衆知されたこと、マスクをつけることが習慣化されていたことなど、様々な要因が取り沙汰されています。また最近では疫学的な研究から、日本型のBCGワクチン接種が新型コロナの重症化に歯止めをかける効果があるのではないか、という意見が出ており、それもあり得ると考えています」

 

・高橋氏が「もう一つの可能性」として指摘するのは、日本では医療機関におけるCTMRIの普及率が世界的に見ても突出して高いことだ。

「新型コロナ感染の確定診断を下すには、今のところ患者の鼻咽頭粘液などにウイルスの遺伝子が含まれているかを見る、PCR検査をするしかありません。しかしPCR検査は確定までにPCR部分だけで数時間を要し、患者数が少ない間は効率が悪く医療資源の浪費になります。また、検査希望者が病院に殺到すれば、医療崩壊を引き起こす懸念があります。それに比べて肺の断層画像を撮るCTMRI検査はその場で重症化する前の肺炎の兆候を見つけることができます。新型コロナを含む肺炎患者を早期に発見していることが、日本の重症者、死亡者の抑制につながっていることは確かです」

 

・「確かに日本で流行している新型コロナは、致死率が数十%のエボラ出血熱や、毎年のように変異して国内で数千人の死者を出すインフルエンザのような横綱に比べれば、幕下クラスのウイルスです。ただ、死亡率が高い欧州の新型コロナウイルスは変異によって大関クラスになっている可能性があるので、楽観はできません」

 

・「私たち医療者は病気と医療行為に関して、常にリスクとベネフィットについてそれぞれどのぐらいの大きさ(縦軸)のものがどのぐらいの頻度(横軸)であるかをマトリクス図のようにして考える習慣が身についています。新型コロナでいえば、これまでは、若い世代に限れば重症化するリスクは低かったし、インフルエンザに比べると感染力も弱かった。それに対して都市封鎖など副作用の強い強烈な措置や全国一律の対応をとるのは、バランスを欠いたやり方です。一方で、欧米のように指数関数的に増加する気配が見られる地域ならば検査も必要だし、都市封鎖の弊害よりも人命のリスクが大きく、踏み切るほうがいい。医療者なら共有しているそうした考え方を一般にも広めようという努力が、私たちに足りなかったのかもしれません」

 

・ウイルス学者・根路銘氏(生物資源研究所所長)の見立てによれば「幕下クラス」であるはずの新型コロナウイルスが人類社会にもたらしている大規模な災厄。高橋氏はこれを、やがて起こりうる、より深刻なパンデミックの予行演習ととらえるべきだと訴える。

「根路銘先生は『5億年前に誕生したさまざまな種類のウイルスが今も微細な生物の中に隠れていて、これからも次々に人類を襲うだろう』と予言されています。医療が発達した現代でも強毒性のウイルスが蔓延すれば、国の人口の何割かの命が失われる可能性は十分にあります。そのときに備えて、私たちの社会は十分な対策を練っておく必要があります」

 

IT起業研究所ITInvC代表 小松仁