MIT Technology Review記事「Here’s what quantum supremacy does—and doesn’t—mean for computing グーグルの『量子超越性』実証は何を意味するのか?」(Martin Giles 米国版 サンフランシスコ支局長)で、グーグルが世界初の「量子超越性」を実証したとの報道を受けて様々な憶測が乱れ飛んだが、少なくともその一部は、今回の成果をひどく誇張したものに過ぎない、グーグルが同社の量子プロセッサーで達成したと思われること、量子超越性を取り巻く誤解について改めて説明されている。
https://www.technologyreview.com/s/614423/quantum-computing-and-quantum-supremacy/
https://www.technologyreview.jp/s/164800/heres-what-quantum-supremacy-does-and-doesnt-mean-for-computing/?fbclid=IwAR2mnlPEwngVQoNhKPM3J9GtXLQbv3FLGPWg865kiaJyoB1KoL-wWVshP04
・グーグルが達成したことは素晴らしいが、量子マシンが従来のコンピューターを灰燼の山にしてしまうほどのコンピューティングの巨人へといきなり変貌を遂げたわけではないし、従来の暗号が近い将来に完全に無駄になるわけでもない。ただし、長期的には、今から準備を始めなければならない脅威となる可能性があるということだ。
・グーグルの量子コンピューター開発は、超伝導回路を使用してキュービットを生成する先駆的な研究をしたカリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授が率いている。
・現時点の量子マシンの性能が、他のコンピューターを凌いでいるわけではない。グーグルが研究に用いたタスクの範囲は極めて狭い。量子コンピューターが多くの点で最高の古典的なコンピューターに追い付くには、まだ長い道のりがある。もしかしたら、追い付くことはまったくの不可能ですらあるかもしれない。
・(なぜ量子コンピューターは「量子超越性」という言葉の響きほど素晴らしくないのか?)
量子コンピューターの弱点は、従来のマシンよりもはるかに多くのエラーが発生することだ。 キュービットの繊細な量子状態はほんの数分の1秒間しか持続せず、わずかな振動や温度のわずかな変化でも簡単に壊れてしまうため、ミスが起こりやすい(量子の世界ではこれを「ノイズ」という)。またキュービットは、ティンダー(Tinder、出会い系アプリの1つ)のような傾向があって、他の多くのキュービットと結合したがる傾向がある。 このような「クロストーク」もエラーを引き起こす原因となる。
・グーグルの論文は、同社がクロストークを削減する新しい方法を発見したことを示しており、このことは、より信頼性の高いマシンへの道を開くのに役立つ可能性がある。しかし、今日の量子コンピューターは、動作させるのに必要なハードウェアの量と複雑さの点で、いまだに初期のスーパーコンピューターに似ており、非常に難解なタスクにしか取り組めない。我々は、1945年に稼働した最初の汎用コンピューターである「エニアック(ENIAC)」に相当する段階にすら到達していない。
・研究者たちの次なる目標は、現実世界の問題を従来のコンピューターよりも高速に解けるのを示すことだ。一部の研究者たちが「量子アドバンテージ(優位性)」と呼ぶ偉業だ。量子コンピューターの膨大な処理能力によって、新しい医薬品や材料の発見や、人工知能(AI)アプリケーションの強化が進み、金融サービスなどのリスク管理などに応用できる他の分野の進歩につながることが期待される。
研究者がこれらの種類のアプリケーションの少なくとも1つで量子マシンの優位性を、近いうちに実証できない場合、量子コンピューティングの周囲で爆発的に膨らんだ期待のバブルがすぐに破裂してしまうかもしれない。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁
