国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多副センター長が、「地球温暖化はもう手遅れか?(はたまたミニ氷河期到来か)」と論じている内容が興味深い。

8月6日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された1本の科学論文が示唆しているのは、たとえ人類がCO2排出を減らしていったとしても、世界平均気温が産業革命前よりも4~5℃高い「ホットハウス・アース」の状態へ地球が移行を始めるスイッチが入ってしまう可能性があるという。
論文の著者はオーストラリアのWill Steffen教授を筆頭とする国際的なメンバーで、世界の持続可能性研究をリードしている専門家たちで、また、この論文のカテゴリは"Perspective"であり、個別的な新知見が書いてあるというよりは、ある分野の研究の大きな見通しを示したものである(審査は通常の論文と同様)という。
2℃前後の気温上昇でホットハウス・アースへの移行が始まる可能性の根拠となっているのは、(1)過去の地球の状態との比較、(2)温暖化を増幅する様々なフィードバックの評価、(3)フィードバックの連鎖の可能性の指摘、といえるようだ。
まず前提となるのは、現在の地球が、「人類世」(または人新世、Anthropocene)と呼びうる、人類という特定の生物種が気候形成に顕著な影響をもたらすようになった、地球史上の新たな地質時代に入っているという認識という。
論文では、この人類世の行く末を、過去の地球が経験してきた状態との比較により考察しており、現在の高いCO2濃度と、それが人間活動の慣性によりさらに増加中であること、気候変化のスピードが過去に例がないほど速いことなどから、現在の温暖化がある臨界点を超えると、中新世中期(Mid-Miocene、15~17百万年前)に近い状態に移行するまで安定化しないだろうと結論しているらしい。
中新世中期は、CO2濃度が300-500ppm(現在のCO2濃度は400ppm)、世界平均気温は産業革命前と比べて4~5℃高く、海面水位は10~60m高かったと考えられており、これがホットハウス・アースのモデルとなっているようだ。
次に、温暖化を増幅する様々な生物地球物理学的フィードバックとして、永久凍土の融解によるメタンやCO2の放出、海底のメタンハイドレートからのメタン放出、陸上と海洋の生態系によるCO2吸収の減少、アマゾン熱帯雨林の大規模な枯死、北方林の大規模な枯死などを評価しているらしい。
ドミノ倒しのように、これらのフィードバックの多くは、気温上昇(あるいはその速さ)がある大きさ(臨界点=ティッピングポイント)を超えると、不連続的に進行する、もしくは進行が止まらなくなる性質を持った「ティッピング要素」であると考えられるという。
臨界点の低い(1~3℃の)フィードバックのスイッチが入り、温暖化が増幅されることにより、臨界点が高め(3~5℃)のフィードバックのスイッチが入ってしまう、という連鎖が次々に起きることにより、比較的低い臨界点を超えることで、ホットハウス・アースへの移行が止められなくなる可能性があるという。
未来の地球は不確かさで満ちており、地球システムの様々なフィードバックも、太陽活動の変動も、そして我々人類の社会がどのように変化していくかも不確かな中で、人類は持続可能な未来を切り開いていかねばならないという指摘は、的を射ていると思う。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁
