8年ぶりのアルバム『async』をリリースしている坂本龍一氏が、“自由”な「音」というのが本作のキーワードとして、次のように述べているのは、印象的である。
 
「ぼくたちのように都市環境のなかで暮らしていると、どうしてもそうした“自然”からは距離が生まれてしまう。
自然と戦い、生き延びてきた人間の長い歴史を振り返っても、そういう自然の脅威から身を守るあり方は、どうしてもぼくたちの本能に刷り込まれてしまっています。
だから厚い壁を立て、頑丈なガラスで自分を覆って暮らしている。
でもぼくには、自然は究極のインスピレーションの宝庫なんですよ。」
 
「ステレオに対する不満や疑問は最近すごく強くなってきていて、『もの』の音を聴きたいというのも、そうした関心と結びついているんです。
ステレオで聞くということは、音を発するスピーカーは真ん中にないのに、何もないところの音を“幻聴”として聞いているわけなんですね。
これは完全に人間のなかの“地図”というか、認識の問題です。
そういう幻聴を用いることを、なるべくやめたい。
『もの』があるところから、実際にその『もの』の音を聞くという本来の音楽のあり方に戻したい、という気持ちがとても強くなっています。
50種類の音があれば、本当は50個のスピーカーを用意して、スピーカーという『もの』の音を聞かなければならないはずなんですよ。」
 
「真剣にものをつくるときは、情報のインプットで満腹な状態にしないこと。
少なくともぼくの場合は、自分が“空腹”でないとアウトプットができません。
async』をつくったときも、メールのチェックは必要上仕方ないとはいえ、SNSの類は一切目にいれませんでした。
24時間の準備態勢、つまりいつ新しいアイデアが降ってくるかわからないなかで心の態勢を整えておくこと。
いざというときは自分を空っぽにすること。
このふたつが大事なんじゃないでしょうか。」
 
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁
 
 
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