茂木健一郎さんが、「美術展では何を見て、記憶すべきか」で、絵を順番に、解説と読み合わせながら見ていく、という方も多いようだが、これは疲れるし、あまりお薦めではない、それよりも、作品を、クオリアとして、一連の流れの中で受け止め、感じることをおすすめする、としているのは参考になる。
 
「作品が並んでいる、その風景を、感覚として受け止めるのである。そして、惹きつけられる作品があったら、立ち止まって、じっと、そのクオリアを深掘りすればいい。引っかかるものがない作品は、むしろ流して早回しで動いてかまわない。」
 
「質感、すなわちクオリアを記憶するといっても、戸惑う方がいるかもしれない。名付けることができないからである。しかし、自分の中ではありありと残る。それが、時間とともに育っていくこともある。それだけが、芸術の福音である。」
 
これは、芸術に限らず、人生の時も同じで、時々刻々を、二度と還らないクオリアのかたまりとして体験し、それを記憶する時、それは確かに言語にはできないものなのであるが、人生が私たちに与える喜びは、最大のものとなる、そのような態度を訓練する場として、美術展は有効である、というのはよく理解できる。
 
IT起業研究所代表 小松仁