
今年出版された「シリコンバレーから将棋を観る」(羽生善治と現代)は、そういった面目躍如の内容で、羽生善治四冠を中心に、佐藤康光棋王、深浦康市王位、渡辺明竜王たちとの交流、対話の内容も実に興味深い。
将棋から一度は遠く離れたけれど将棋の世界が気になっている人、将棋は弱くてもなぜか将棋が好きで仕方ない人、将棋を指したこともないのに棋士の魅力に惹かれて将棋になぜか注目してしまう人など将棋の世界の周りには多くの人たちがいる。
最近の子供たちは、ゲームという手に取りやすく独りで遊べるものが最初からあるため、これにのめり込んでいる様子だが、私たちの子供時代は、父親と将棋盤に向かい始めるのが一種の家族教育のようなものだった。
ところで、羽生さんは「ITとネットの進化で将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということだが、この高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きている」という「高速道路論」を語っている。
情報を重視した最も効率の良い、しかし同質の勉強の仕方でたどり着ける先には限界があり、そのあたりまで到達した者たち同士の競争となると、勝ったり負けたりの状態となり、そこを抜け出すのは難しく、次から次へと追い付いてくる人たちも加えて「大渋滞」が起きるというものである。
その「大渋滞」を抜け出すには、そこに至るまでの成功要因とは全く別の要素が必要になるはずだという。
そして、「量が質に転化する」ときに生まれる価値こそが、新時代の創造性やイノベーションのカギを握るのではないかという。
知識の雪だるまを作っているような段階では、どんどん蓄積して、どんどん分析することで、雪だるまが急激に大きくなりどこまで育つか分からないうちに、そのデータベースがかなりの量を網羅していったとき、ひょっとすると相乗的な効果が生まれてくるかもしれず、誰も予想していなかったイノベーションが起こったりするかもしれないという訳である。
また、「才能」に恵まれるだけでは不十分で、「対象(この場合は将棋)への深い愛情ゆえの没頭」という共通の基盤の上に、独特の「際立った個性」が加味されてはじめて、「超一流」への壁が超えられるという。
「高速道路を走り抜けた先の大渋滞」を抜けるのに、これらの3要素が不可欠であり、特に「際立った個性」の強さが、最後の紙一重の差を作り出す源になるという捉え方は、仕事柄、創業者の方々と話をしてきた経験から説得力を感じる。