
内閣府の試算では、超低金利が続いた影響で、95年度からの10年間で、計14兆3000億円が家計から失われたという。預金などから受け取る利息が21兆2000億円減ったが、住宅ローンなどの返済負担の軽減のほうは6兆9000億円にとどまったためである。
一方、企業は借り入れ負担が大幅に減り、21兆8000億円の恩恵があったわけで、日本企業はこれを元手にリストラを進め、復活を果たしたともいえるかもしれない。
この辺のマクロの経済状況はなかなかつかみにくいが、NRI(野村総研)チーフエコノミスト リチャード・クー氏の「『陰』と『陽』の経済学」の内容や、NRIメディアフォーラムでの講演の説明が分かりやすい。
前著「デフレとバランスシート不況の経済学」の続編的な内容でもあるが、10年以上前から、講演会、メディアにたいして「バランス・シート不況」の概念を説き、バブルが弾け15年という今ようやく、当時は状況不明であった事柄の明快な解説となっており、ポイントは次のようになっている。
・1995年頃から短期金利がほとんどゼロであるにもかかわらず、日本企業は借金返済に回っていた。
(2002~2003年頃には、その返済額は年間20~30兆円という規模)
・資産価格の暴落が原因で失われた富はおよそ1,500兆円(GDP3年分に相当)。株価のみは外国人投資家による投資の続行により、不動産などに比べて下落率を抑えることができた。
・不動産などの価格が大幅に下落し、債務超過になり続け企業の負債と資産がマッチしなくなり、バランスシートが大きく毀損し、多くの企業はバランスシートまでも債務超過という状態になった。
・1990年代以降の日本経済を変えたのは、キャッシュフローでバランスシートを清算すべく、一斉に借金返済へと回った「企業行動の激変」と考えられ、それによって、バランスシート不況が発生した。
・このバランスシート不況とは、債務超過を隠す企業と不良債権を出したくない銀行間のみが問題の本質をわかっている「マネージャーとバンカーの不況」で、すなわち「見えない、聞こえない不況」といえる。
・これによって、銀行の企業向け貸し出しが大幅に減少し、資金需要がないため、金融政策が効かない状態に陥ってしまった。
・一方で、日本のGDPはバブル崩壊後も拡大を続けたが、本来であればデフレスパイラルに陥り、日本のGDPはバブル期の数分の1になっても不思議ではなかった。しかし、政府の国債発行による財政政策が、財政赤字を抱えつつも、デフレギャップが表面化するのを回避していたといえる。
・陰と陽といっているのは次の点である。
 ̄△寮こΔ任魯丱薀鵐好掘璽班垓靴亡戮蝓合成の誤謬となる。企業の財務内容は資産-負債<0となり、財務の健全化とは債務の最小化を指し、放置すれば恐慌を引き起こす。さらに金融政策は無効となり、物価はデフレの傾向に、金利は超低金利となり、貯蓄は節約のパラドックスから悪徳とされる。
⇒曚寮こΔ任老从儚悗龍飢塀馗未蠅法▲▲瀬爛好潺垢慮えざる手が法則として働く。企業の財務内容は資産-負債>0で、利益の最大化を目指し、最大多数の最大幸福を生む。金融政策は有効で、もし財政政策を行うとクラウディング・アウトを引き起こし逆効果となる。物価はインフレの傾向にあり、金利は通常の水準に、そして、貯蓄は美徳とされる。
以前は、テレビにも頻繁に出演され当時の政府、金融関係者と異なる見解を理詰めで堂々と論じていたのが非常に印象的であった。
それにつけても、昨今のメディアの表面的、皮相的な取り組み方がひどくなってきている状況は何とかならないものかと感じている人は少なくないと思うのだが。