
この種の問題は根深いものと思うが、さらに根本的な問題を提起しているような気がする。
NPO「構想日本」代表で慶大総合政策学部教授の加藤秀樹氏の講演の中に、次のような話がある。
「効率というと、それは効率がいいと、みんなそう思っていますが、効率の中身というのは実はよくわからない。
法隆寺の棟梁をやっていた西岡常一さんが唯一内弟子に取った方で、小川三夫さんという方がいらっしゃいます。この方自身が今中心になって昔の伝統工法を守る若い大工さんを育てている。彼と話していたら、今耐震偽装問題があるが、あれは効率を重視し、いかに少しのコストで儲けるかという意味での効率を徹底して、ついに悪事に走ったという例だ。法隆寺とか薬師寺というのは、そういう意味では非常に効率が悪い。たぶん、今ふうの建築基準にあてはめていくと、必要な木材の1.5倍から2倍を使っている。それは、例えば10年なら10年、建物を使うということから見ると、非常に非効率である。だが、木造建築を普通に建てれば100年もつとして、木材を2倍使ったおかげで1000年もつとしたら、それはすごく効率がいいことになる。
効率というのは、コストだけではなく、時間という観点で考えれば全然違うんだということですね。1000年単位で見ると、ぎりぎりの木材で100年もつ建築物が2倍の木材を使ったら5倍効率がいいということになるわけですから、効率というのもよく考えないといけないと思ったんですね。
今、企業の会計を見てみますと、かつては1年で決算を出した。最近は半期、さらに四半期で決算を出す。たぶん、近い将来、毎月毎月決算を出していくようになるかもわかりません。そうやって、期間を短くすればするほど、その日のことしか考えなくなるわけですね。
その日のことしか考えなくなるとどうなるか。長期的な投資をしなくなる。まっさきにリストラの対象になるのは、たぶん研究開発部門です。アメリカの企業が、一時非常に悪くなった時には、その前に必ず研究開発部門を大幅に削っているわけです。そうすると、非常に短期的に見たら、収益はすごく改善するわけですね。しかし、必ず後が続かなくなる。収益改善という結果を出して辞めていく経営者は、あの人はすごい経営者だったということですけれども、あとのことが続かなくなるわけです。3年単位で見ると効率がよくても、10年、20年単位で見ると、非常に非効率だったということになるんだと思います。
物事はすべてそういうことを含めて考えないといけないんじゃないかと。どうもいろんなものが非常に短期的になって、ものの中身を考えずに、言葉で流される部分が多くなっているんじゃないかとなと、そんなことも思ったりしています。」
今、グローバルスタンダードという言葉を一種の錦の御旗のようにして、米国流の効率性、短期収益重視への動きが目立ってきたが、そろそろ落ち着いて結局どうしたほうが良いのかを詰めるべきではないだろうか。