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随分論議を呼んだホワイトカラーイグゼンプションは当分見送りの方向らしい。
そもそも“exemption”という言葉も馴染みがないが、免除及び 所得税の課税控除の意味で、ホワイトカラーイグゼンプションとはホワイトカラー労働時間規制適用免除制度、いわゆるホワイトカラー労働者に対する労働時間規制を適用免除(exempt)することを表わしている。

いきさつは、まず2005年6月に日本経団連が提言を行い、2006年6月に厚生労働省が素案を示したものである。
一方、メディアからは「残業代ゼロ法案」と呼ばれ、労働側から久しぶりに一致した猛烈な反発が出、与党側も今後の統一地方選挙や参院選挙への配慮から提案見送りとしている模様である。
一般の意見も新聞やTVの調査でも、導入反対が大きく上回っているようである。

この問題は、サービス残業を結果的に合法化し賃金を実質値下げするものとか、非正規社員の仕事を正規社員へ切り替え、長時間無給残業により過労死の増加を招く恐れなどマイナス面の評価が多いと見受けられる。

ちなみに、欧米ではすでに法制化されており、例えば米国では、週40時間以上の時間外労働に対する割増賃金(1.5倍)の支払義務のみを課している。
この割増賃金支払義務からの適用除外要件としては、「ホワイトカラー要件」「俸給要件」「職務要件」の3つの要件を満たすことが必要とされ、職務要件としては、部下が存在する管理職、自由裁量が大きい運営業務、または、高度な専門職であることなどが要件として挙げられている。
例えば教師や法律業務・診察業務開設のライセンスを有する者は俸給の額を問わず原則として適用除外対象者となる。
俸給要件と職務要件には一部連動があり、週給455ドル相当以上の賃金を受けている場合には、以下の各要件を満たした場合に適用除外対象者となるが、年間賃金総額が10万ドル以上の場合には緩和された要件を満たせば適用除外対象者となる。
ホワイトカラーとは主として反復的労働に従事する労働者でない条件、俸給要件とは、週給455ドル以上の固定額の支払いがなされる条件でさらに職務要件とは下記の条件をさしている。

・管理職の場合
主たる職務が、勤務先企業ないしはその部門の管理(指揮命令・従業員管理など)にあること。
常勤従業員2人分に相当する以上の従業員の労働を人事権を含んで指揮管理していること。
他の従業員を採用解雇する権限があるか、その提案勧告に特別な比重が置かれていること。
の3つ全てを満たすか、あるいは年間賃金総額が10万ドル以上で上記いずれか1つを満たすことが必要。
・運営職の場合
主たる職務が、勤務先企業または顧客の財務、経理、監査、品質管理、調達、宣伝、販売、人事管理、福利厚生、法務、コンピュータネットワーク、データベース運営その他の管理等のオフィス・非肉体的業務であること。
主たる職務に、重要事項に関する自由裁量・独立した判断を含むこと。
の2つをいずれも満たすか、あるいは年間賃金総額が10万ドル以上で上記いずれか1つを満たすことが必要
・専門職の場合
法学・医学・経理学・保険統計学・工学・建築学・物理化学生物関連学などの長期専門的知識教育による高度な知識を必要とする労働であること。
音楽・文筆・演劇・グラフィックアートなどの芸術的創作的能力を要する分野で、発明力・想像力・独創性または才能が要求される労働であること。
ハードウェア・ソフトウェア又はシステムの機能仕様決定、設計・開発・テスト・修正、マシン・オペレーティングシステム関連システムの設計・テストなどが主たる職務であること。
のいずれかを満たす場合。

特に米国の場合、管理職だとMBA、経理専門職ではCPA(公認会計士資格)、法務部門の管理職ではバー(司法試験)など専門的な教育を受けたという事実などの客観的な根拠が求められ、その要件を満たさないと労働関連の裁判で極めて不利となる現実があるらしい。
その他、専門職の場合も、職歴か類する教育を受けたという証明が必要とされる模様である。
また、欧州各国でも類似条件で法制度化されている。

日本で、特に問題となるのは、欧米で曲がりなりにも実績を積んでいる成果主義の慣行がまだ確立されていないか、逆にうまくいっていないため、ホワイトカラーイグゼンプションの大前提が極めて脆弱な点だと思う。
私の記憶、常識では、米国の学卒ホワイトカラーは基本的に入社と同時に、マネージャ職であり、成果を問われるため早朝からあるいは休みもいとわず働いており、日本のサラリーマンが定時後や休日出勤を残業代として稼いでいるのは時間給のブルーカラーと変らないではないかと冷やかしていた。
日米で大きく事情が違うのは、米国は基本的に開かれた社会で、ヒスパニックを始め、多くの安い労働力の予備軍が控えており、非常に競争が激しい点である。ドラッカーのいう“知識労働者”の領域でも、西欧はもちろん、東欧、インド、中国などからどんどん優秀な人材が流入し、同じ土俵で戦う必要があるため、ノンビリしていられない。
したがって、決められた時間だけ働いていれば済むという環境ではなく、時間も勿論だが、如何にイノベイティブに仕事をし成果を出していくかしのぎを削っている。

日本は、移民をまだ受け入れることが出来ず、丁度、地方の村で、自分たち血縁者一族のみでよそ者をいれず、身内に近いものだけで、仲良く争い事なく穏やかに過したいと思っている様子に例えられる。しかし、これは、いずれ、先細り、衰退につながるのは、歴史の上でもよく見られることではないだろうか。
少子化でたとえ日本の人口が6~7千万人程度になっても、それ自体は適正規模かもしれないと思うが、米国のようにオープンな環境にし内部での競争を高く保ち、日本人は極力知的労働の上位側で実力を発揮できれば何も心配する必要はない筈である。

このように考えていくと、最初にあげたホワイトカラーイグゼンプション問題も、長い目で取り組むべきであると思う。日本人の国民性から、移民受け入れも、完全競争社会もハードランディング的にやろうとしても拒否されるだけであるが、ただし、大局に立ってオープンな競争社会へ着実に移していくため大きく舵を切る正念場ではないかと感じている。