わたしが子どもの頃、学校帰りに

 

ふと気づくと、周りに誰もいないという

 

時がありました。

 

いくら田舎とはいえ、人も 犬も 猫も

 

誰もいなくて、誰ともすれ違わない

 

なんて今思うと、ありえないなぁと

 

思うのです。

 

そういうとき、決まってどこからか大きな

 

野太い声が聴こえてくるのです。

 

その声は、少しくぐもっていて

 

「おぉーぃ」 「おーい」 と言うのです。

 

振り返ってみても、誰もいなくて

 

けれど声は空の遥か彼方の方や

 

ときに、お山の方からまるで拡声器を

 

使っているように、聞こえてくるのです。

 

その声がだんだん近くに聴こえてきて

 

「おーい、まさよー」と、いうのです。

 

「まさよ」のイントネーションが

 

「まさ右上矢印右下矢印」っていうのです。

 

次に振り返ったとき、絶対に何かが

 

すぐ後ろにいるように感じて、怖くて振り

 

返ることが出来なくて、そういうときは

 

心細くなって半泣きしながら、一目散に

 

家に逃げて帰るのです。

 

見ていないけれど、何か巨大な一つ目

 

小僧のような、ダイダラボッチのような

 

大男が後ろにいそうでね。

 

足が遅いのに、必死に逃げては

 

家の向いにあった雑貨屋さんや 

 

お隣の床屋さんがみえてくると、やっと

 

助かったと、ほっとしたものでした。

 

そういう事が起きるのは、夜とか黄昏どき

 

というのではなくて。

 

明るい日の下で、空も青々としている

 

夏の日が多いのです。

 

普段通り、普通の道を歩いているつもり

 

でも、いつしか違う次元の道を歩いて

 

いたのだと思います。

 

子どもの頃って、今よりもそういう事が

 

日常茶飯事だったなぁと思います。

 

異次元に迷いやすかったのかも

 

しれません。

 

今おもうと、床屋さんと雑貨屋さんが

 

あった辺りが結界というのか、こちらの

 

世界と、あちらの世界が区切られた

 

境目のように思います。

 

大きな火の神様をみたのも、ちょうど

 

雑貨屋さんと床屋さんを挟んだ狭い道路

 

だったし、人魂をみたのもその辺りでした。

 

そしてね今になって思うと、ダイダラボッチ

 

のような妖怪たちは、わたしがもっと小さい

 

ときに遊んでいたなぁとも思うのです。

 

あのとき、怖がって逃げて悪かったなぁと

 

今になって思いますが、当時は魔物の

 

人さらいだと、真剣にそう思っていました。