昔 母方の祖母の家は、古い農家で、
茅葺屋根の広い縁側や、日の射さない
薄暗い板の間が続く家でした。
ふすまを幾つか開けると またふすまがあり
板の間があり、薄暗い部屋の角には何かが
うずくまってじっとしていて、昼間はそこから
動かないようにしているように思いました。
うす暗いこともあり、子ども心に何だか怖い
ような心細い気持ちになりました。
けれど祖母の家には、夏休みということもあり
従姉たちが集まり、賑やかな遊びに紛れて、
怖いというを いつしか忘れているのですが
ひとたび夜になると、再びその怖さが顔を
出すのです。
お便所が外にあり、夜にお便所にいくのが
とても怖くて。
真っ暗なお便所の窓からは、すぐ目の前に
山が見えるのです。
黒いボールを糸にぶら下げたように、火が
ゆらゆらしていて、飛ぶようにゆらりゆらり。
まるで空から、大きな何者かが紐を垂らして
ぶーらぶらと揺らしているように、見える
のです。
それがはじめてみた火の玉だったように
思います。
狐火と火の玉は、視覚的にも
その動きもあきらかに違うことを、まだ
子どもの頃は、わからずにおりました。