「立派な部屋も与えて 何不自由ない生活をさせているのに何
が不満なんだ?  

この家に居場所がないと言われること自体、理解に苦しむ」  

家出を繰り返す子供たちの親の多くが こんな言葉を口にします。
子供が本当に求めている居場所とは、なんでも望みが叶うよう
な場所ではありません。  

悲しい時に思い切り涙を流すことができる、嬉しい時に皆が一
緒に喜んでくれる。  

そのように「私はここにいていいんだ、愛されているんだ」と
いう自己肯定感や 自尊感情が育まれる場をいうのではないで
しょうか。  

私が少年サポートセンターの少年育成指導官として 非行少年
たちと関わり始めたのは34歳の時でした。  

もともと福岡県警の警察官として 少年課に勤務していました
が、当時は悪いことをする子供の人格と その行為を同一視し
ていたように思います。  

それが誤りであることに気づいたのは、私自身が育児をしてい
く過程でのことでした。

「子供は1人の例外もなく純真無垢で、将来犯罪者になるため
に生まれてきた子など皆無のはず。  

そんな子供たちがなぜ 犯罪に手を染めるようなことになって
いくのだろう。」 そう考えた時、それまで行為や結果ばかり
に捉われていた目が、  

なぜそうなったのかという原因へと 向くようになったのです。

そして気づいたのは、非行をする子には例外なく、その〝根っ
こ〟があるということでした。  

虐待や放任で愛情の水が注がれず、根っこがカラカラに乾いて
いる子。 逆に、過干渉や過保護によって根腐れを起こしている
子。

大事なのは家庭環境の良し悪しではなく、愛情の掛け方で、そ
の子にきちんと愛情が伝わっていなければ、根っこが傷み、子
供の心は 壊れていくことを痛感したのです。

警察官としての正義感と使命感に 燃えていた私でしたが、少年
サポートセンターの 少年育成指導官に転職したことを機に苦し
む子を自分たちの手で守り抜くんだ という覚悟が加わったよう
に思います。  

これまで少年犯罪に対しては、補導や検挙といった対症療法が
主でしたが、これからは「非行少年をつくらない時代」だと私
たちは考えています。  

そのために必要なのが、待つ活動から攻めの活動への意識の転
換です。 その大きな柱の

1つ目が「非行少年の立ち直り支援」です。  

多くの子供たちと関わってきて気づいたのは 「子供は自力で
更生することは難しい、大人から差し伸べられる支援の手が絶
対的に必要だ」ということでした。  

しかし彼らは大人を敵視しているため、ただ待っているだけで
は姿を現してはくれません。  

どうすれば心と心が繋がるだろうと考え、行ってきた方法は、  
携帯電話の番号を教えてもらったら、たとえ繋がらなくても必
ず毎日かけるということでした。  

そしてその子がいるであろう場所に何度も出向いていく。そう
やって「私はあなたの敵じゃない、あなたのことを心配してい
るよ」というメッセージを 発信し続ける。  

すると子供は拒否していた支援の手を 必ず握り返してくれる
時期がある という確信を得るに至りました。  

2つ目は「居場所づくり」です。  

子供の居場所は、家庭・学校・地域の 3つだといわれていま
すが、非行系の子にはそのいずれにも居場所がありません。  

居場所がないことは孤独で不安です。その不安や寂しさが怒り
や悲しみへと転じ、問題行動を引き起こしていくのだと思いま
す。  

そこで家庭・学校・地域に居場所をつくっていただく 働きかけ
をやっていますし、私たちの少年サポートセンターもまた居場
所の1つです。  

3つ目は「予防教育」です。

これこそが  非行少年をつくらないための最も有効な 先制活
動だと考えています。  

非行の真っ只中にいる子や、いじめ自殺を考えているような
子は 心がフリーズしているため、「相談してほしい」という
外側からの声掛けに  応じてくれることは期待できません。  

そこで必要なのが、心を揺さぶってやることです。

私たちは講演の際、非行の子たちと日頃現場で関わっているか
らこそ出合えた言葉や彼らの思いをそのままの形で伝えます。

自分と同じ苦しみの中にいる者の言葉だからこそ、強く心を揺
さぶられるのでしょう。

講演が終わった途端「私の話を聴いてほしい」と校長室へ駆け
込んできた子、また「いじめの恐ろしさ、悲しさがよく分かり
ました。ここから変わりたい」といじめの加害者だったことを
自ら話してくれた子もいました。

また、私が講演の最後に必ず紹介させていただくのが、ある女
の子から貰った手紙です。

いま悩んどることは苦しいよね。死にたいよね。でもね、本当
に死んだらダメ
 (略)
私、友達に噂流されて、元カレも敵で、リスカ(リストカット)
に、薬物に、酒に、男遊び、たくさんしたよ。

けど、安永さんがきっかけをくれて他の高校に入れた。絶対反
対しとった親にも話をしてくれた。

初めて心の底から信じられた人。ねぇいま私、笑えとるんよ。
どうやって死ぬか毎日考えてた私がいまは生きたいっち思う。

気持ち悪いっち言われ続けてきたリスカの痕も、いまは私の宝物。
 
たくさん乗り越えた証、私の証。いつか絶対にその痕も含めて
愛してくれる人たちが現れるから
 (略)
私はずっと1人、そんなんおらんち、思ってもね、まだきっか
けに出合えてないだけだよ。皆幸せになれますように」

問題行動を起こす困った子ではなく、問題を抱えて困っている
子。非行少年の立ち直り支援をする方はその視点を持って問題
行動の根っこにあるものは何かを探し、きちんと愛情を掛けて
あげてほしいと願っています。











神仏からの加護の意味がある「御蔭」が語源とされ、 「さま」
を加えて「お陰様」になったと言われている。

今ではお世話になった方への感謝の言葉として使われます。

現実は、周囲の人より少し能力のある人はは、自分は誰よりも
優れ、他者は劣っていると錯覚しやすい。

そうなると、相手の弱点ばかりが目に付いてしまう。“オレが
オレが…”の我の強さはここで生まれます。

すべての面で問題解決の先頭に立っても、多くは言われたこと
だけをやる“指示待ち族”になる。

そして、努力は空回りし、“裸の王様”になってしまう。

ところが“おかげ おかげ…”を意識して人と接していると、
少しずつながら“他者の力(他力)”を感じるようになります。

すると、考え方が合わなかった他の意見も耳に入るようになり、
不満として聞こえていた現場の声も、素直に入ってきます。

「人」という文字が、斜めの画が支え合って構成されているよ
うに、私たちは周りの人の見えない力によって支えられています。

しかし自身が支えられていることに全く気づかず、“オレが
オレが…”を必死で続けていたわけです。

“おかげさま”は「陽」の人物が「陰」の存在を敬う意味も
あります。

「陽」の人が、感謝の気持ちを家庭を守る配偶者や家族への
感謝を生み出す源泉になります。

“おかげさま”は新たな感情を生みだす言霊(ことだま)にも
なるのです。





~龍は雲を呼び、恵みの雨を降らせて万物を養う~

“陽”である龍が、雨を降らせる雲を呼びこむが、実際に
雨を降らせるのは“陰”の役割である雲であり、万能の龍
が活躍できるのは、陰の力に依るところが大きい。

経営者の能力も一人で開発し発揮されるわけではありません。

卓越した技術を持っていた本田宗一郎が活躍した背景には、
副社長として経営面を支えた藤沢武夫がいたように、 お互
いが補完できるような関係を続けたからです。

これは「いい人と巡り合った」「運がよかった」といった
話ではなく、 自分の弱点を補ってくれる相手の、優れた
長所を見つけだし、 その長所が存分に発揮できるように
努力を重ねた結果です。

陰の力を消極的で弱いものだと考えるのは誤りです。

「雨降って 地固まる」「禍を転じて 福と為す」など、
日本には陰と陽の関係を好転させる諺が山ほどあります。

理想の状態を実現するには、陰の力があってこそ…なのです。
人口が減少し、賃金水準も後退した日本は陰の時代のド真ん中。

陰の時代があったからこそ、と後々に語れる充実した時代の年
になりたいです …ねぇ…