結核患者接触者
である私は、一昨日保健所にレントゲン検査に行った。
昼さがりの空はもう秋の空で、診療所にはゆるんだ空気が流れていた。
検査を受ける者は私一人しかおらず、待たされることなくレントゲンを撮り、すぐに診察室に通された。
レ
ントゲン写真を前に座っていたのは、50代と思われる女医だった。昼過ぎの疲れが出る頃なのか、受診者が他にいないからか、ゆっくりした口調で私の経歴を聞き、なかなか話を切り出さない。
ははあ、これは結核が移っているんだな。私にショックを与えないよう慎重に言葉を選んでるんだな、と私は気を巡らせた。
結核なんて治療方法も確立しているだろうに、その程度のことでたじろぐ私ではありません。
女医はレントゲン写真を指差して言った。
「ここに影が写ってるんです。でも乳首かも知れませんし、ほかのものかもしれません。」
左肺の下部に白い円がみえた。
「ほかのものって癌ということですか?」と私は単刀直入に言った。
「えーえー、そういうこともありますよ」という言い方を女医はしたが、その後は、結核の影なら肺上部に写ると説明するなど、癌の疑いを前提にした話に変わっていった。
私のかかりつけの医者の判断も仰ぎたいから、私が次に通院するまでにレントゲン写真を持っていっておくという。
私は、高脂血症や糖尿病予備群になって以来、十数年真面目に通院している。薬だけは欠かしたことがないのだが、食事療法も運動も真剣に取り組んでいる方ではなく、今や糖尿病患者に昇格した。
しかし2週間前の診察で、突然私の体重が1キロばかり減っていた。先生に言わせると、顔に少し角が出てきたとのことで、「まさか癌じゃないよね?」と冗談を言った。
その舌の根がまだ乾かないうちに、私に癌の疑いがあると聞いたとき、この先生は何を思うのだろう。
個人医院を開業する前は総合病院の勤務医だったから、癌患者を多数診てきたはずだ。素人の私でさえ癌患者の死相程度はわかるから、医者ならもっと経験に裏打ちされた勘が働くに違いないのだ。
やっぱりねとこの符合に先生は頷き、わが見識眼に自信を深めるのではないだろうか。
その時の先生の得意満面の顔を想像し、私は面白がって、深刻になることはない。白黒はっきりしていない今の段階で、深刻ぶることもないだろう。
だが、先のことを本気で考えるチャンスを与えられたのだという思いはある。このことだけは真摯に受け止めなければいけないだろう。
私にも経験則はある。この結果がどう出ようとも、私がこの気付きを忘れ、これまでどおり刹那的に日々を送るのは目に見えている。だから忘れないようここにメモしておこう。