トヨタは車のから社会への企業 | ある女子大講師

トヨタは車のから社会への企業

社長らしき人が「クルマ会社を超え、人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革する」と言っていたんです。

「クルマ会社を超える」ってどういうこと?と思って調べてみると、気になることがたくさん。最近はクルマの開発だけにとどまらず、ロボットやAI技術をつかったまちづくりにも取り組んでいるそうだし、新しく制定されたミッションは「幸せの量産」......。調べれば調べるほどに、トヨタに興味が湧いてきました。

いてもたってもいられなくなった私は、トヨタの中の人と接触することに成功。ここぞとばかりに、「トヨタって一体なんの会社なの?」「SDGsやカーボンニュートラルについてどう考えてるわけ?」と、日頃から抱いていた疑問の全てをぶつけてきました。

「クルマの会社じゃない」ってどういうこと?

さくこ いきなりですけど、トヨタさん!トヨタって一体なんの会社なんですか!?

トヨタさん 君は......さくこちゃんだっけ?どうしたの急に。

さくこトヨタの最近の取り組みがおもしろそうで色々調べていたんですが、知れば知るほどよくわからなくて。豊田社長は、これからのトヨタをクルマ会社を超えたモビリティカンパニーとして変革させたいと言ってますよね。それ以外に、実証都市を掲げたまちづくりも進めているし、新しいミッションは「幸せの量産」だとも。トヨタってクルマの会社じゃないんですか?

トヨタさんなるほど。それで「トヨタはなんの会社か」か......。たしかに、トヨタは豊田織機という織物の会社として興った歴史があるし、時代時代でやってることが変わっていっているように見えるよね。でも、実はトヨタという会社はずーっと変わらずに同じことに取り組んできたんだよ。

さくこえっ? どういうことですか?

トヨタさんさくこちゃんは「豊田綱領(とよだこうりょう)」って知ってるかな?

さくこ聞いたことあるような、ないような......。

トヨタさん豊田綱領は、いまから65年前にグループの創始者・豊田佐吉の考えをまとめたもので、グループ全従業員の行動指針としての役割を果たしているんだ。その最初の項目として『産業報国』、つまりは「自分のため、会社のためということを超えて、『お国のため、社会のため』となれているかどうか」ということが謳われているんだよ。

さくこ 『お国のため、社会のため』......って、すごい壮大なビジョンですね。

トヨタさん トヨタの社内ではよく、「我々が目指すのは、売上をどれだけ伸ばすとか、世界シェアの何パーセントをとるとか、そういうことではない」という話にもなるんだ。もちろん仕事の中で収益の話もするけど、「その前にもっと大事なことがあるだろう」とか、「この仕事の意義はなんだ」とか、そういう言葉が日頃から飛び交っているんだよ。

さくこ 売上よりも大事なことなんてあるんですか?

トヨタさん 普通はそう思うよね。でも、こうした想いを本気で貫いてきたのがトヨタなんだ。本当に「社会のためになること」を考えたら、車体などのハードを作っているだけではダメで、ソフトウェアも、クルマが走る街も一体で考えないといけない。でも、それらはまだ誰もやったことのない挑戦だから、いろいろな人を巻き込んで検証する必要があるんだ。

さくこなるほど。だから"実証都市ウーブンシティ"というプロジェクトがはじまったわけですね。

トヨタさん その通り。つまりトヨタが「自分以外の誰かのため」にさまざまなことに取り組むのは、これまではもちろん、これからも変わっていない。2020年に定めた「幸せの量産」というミッションも、そんなトヨタらしさをわかりやすく伝えるために作られた言葉なんだ。

▼ポイント

 

  • ・トヨタは創業以来、「自分以外の誰かのために」を体現している会社
  • ・時代が変わり、業態が変わっても、その精神はいまも息づいている
  • ・どうすれば幸せを量産できるか、ウーブンシティでも実証実験を行っていく

 

ちょっと普通じゃない? トヨタの仕事の流儀

トヨタさん なーんて偉そうに話したけど、実はぼく自身、トヨタがどういう会社なのかわかってきたのはつい最近のことなんだよね。

さくこ えっ!? そうなんですか?

トヨタさん 世間一般の会社とはなにか違うとは思いつつ、それがなにを意味しているのか説明するのはむずかしくて。資本主義を徹底して突き詰めない会社なんて、青臭いとか思われてもおかしくないからね。

さくこ 理解したのはなにがきっかけだったんですか?

トヨタさん ここ最近耳にする機会が増えた「サステナビリティ」「SDGs」という視点で、自社の歩みや豊田社長の言葉を振り返ってみたのが大きかったかな。「ああ、うちのやってきたことって全部つながってたんだ」って気づくことができたんだ。

さくこ たしかに世の中の動きとして「環境によいことをしよう」ってムードが高まってますよね。それこそトヨタのプリウスなんて、まさにその先駆けだったのでは?

トヨタさん いやそれが、プリウスは初めから「環境によいクルマを作ろう」として生まれたわけではなくて、元々は「21世紀に求められるクルマとはなにか」を考えることからはじまったんだ。

さくこ え、そうなんですか?

トヨタさん 1990年代、本当の意味でお客様のベネフィットを考えたら、環境のこととも向き合わなくてはならないし、その一方で経済や効率的なことも考えなくてはならない。その両方を踏まえて導き出されたのが「世界初の量産型ハイブリッド車」という答えだったんだ。まだ世界中で誰も実現していない技術だったから、開発当初は完成の目途もなかったみたいだよ。

さくこ へぇ〜。でもそれだけ苦労して開発されたということは、当然大ヒットしたんでしょうね。

トヨタさん それが、発売直後はそこまで利益が出たわけではなかったんだ。でもね、それは決して悪いことじゃなくて、トヨタはまず「やらなければいけないことを考える」、その上で「ビジネスとして成立することも考える」という順番で、ものごとを進めているんだよ。

さくこ なるほど。ちなみに最近のトヨタはハイブリット以外にもいろいろな種類のクルマを開発しているようですけど、これにはどんな意図が?

トヨタさん 「環境によいことをする」って、なかなか単純なことじゃなくて。特にトヨタは、世界中の幅広い地域でビジネスを展開しているし、それぞれに長い歴史があってね。地域ごとにお客様の志向も違えば、発電方法などのエネルギー事情も違うから、地球規模で「環境によいこと」をするためには、こうした地域ごとに異なったニーズに残さずお応えする必要があるんだよ。

さくこ へぇ!たしかにこんなたくさんの地域で展開していたら、そう考えるのも頷けます。

トヨタさん それに、最適なソリューションは5年、10年と時間軸でも変わっていくでしょ?正解は誰にもわからないからこそ、すべてのお客様にバリューを届けるために可能性を探っていく必要がある。「全部やる」のはそのためなんだよ。

さくこ 地域や時代が変われば解決策も変わるってことかぁ。

トヨタさん たとえば再生可能エネルギーが豊富な地域で、短距離の街乗りが多いのであれば、電気自動車(BEV)。長距離移動で「万が一止まってしまったら」という不安がよぎるようなら、プラグインハイブリッド車(PHEV)。また、商用車は水素で動く燃料電池自動車(FCEV)が実用的だったりするよ。

さくこ でも、全部やるって大変そう......。お金もかかるし大丈夫なんですか?

トヨタさん 「経済合理性に照らして、非効率では?」という批判を受けることもあるよ。でもさっきも話したように、まずやらなければいけないことを考え、次にそれをどうビジネスとして成立させるか、そしてより効率よく生産するには、という順で考えるのがトヨタの流儀なんだ。

▼ポイント

 

  • ・プリウスは、社会のことを考えた結果、ハイブリッド技術が生まれた
  • ・売り上げなど数字ではなく、お客様にバリューを届けることが最優先
  • ・ニーズは地域、時代で異なる。地球規模で環境を考えるからトヨタは「全部やる」

 

誰一人取り残さないカーボンニュートラルへ

さくこ 答えが一つじゃないのはわかりました。でも最近自動車業界ではCO2の排出量を減らす「カーボンニュートラル」という言葉がよく話題にあがってるそうですね。本当に実現できるんですか?

トヨタさん カーボンニュートラルの達成に向けても、さまざまなソリューションの方向性が必要だと思うんだ。例えば、電気自動車は走る時にCO2を出さない。でも火力発電の多い地域だったら、バッテリーに充填する電気を作るためにたくさんのCO2を出てしまって、トータルでの環境負荷は大きい可能性もある。このように、カーボンニュートラル一つとってみても、多面的な視点が必要になるんだよ。

さくこ たしかに一つの論点だけで考えるのはむずかしそう......

トヨタさん ちなみに、さくこちゃんは「トリプルボトムライン」っていう言葉を知ってる?

さくこ トリプルボトムライン?

トヨタさん これは組織の活動を「経済」「社会」「環境」のどれか一つではなく、あらゆる側面で評価しようという考え方なんだ。これからは「環境」の課題に向き合いながらも、みんなが安心して働ける「社会」の実現も考えないといけないし、当然それには「経済」を活性化させる必要もある。

さくこ 働きがいや経済成長もSDGsの一つですもんね。

トヨタさん そう。だからこそトヨタは、複雑に絡み合った問題を立体的に捉えて取り組んでいるんだよ。例えば東日本大震災の時、被災地に雇用を生むために作った生産拠点の年間出荷額は今や8000億円。被災地支援からはじまった取り組みが、税金を収めるという社会貢献や、日本の技能承継、人材育成にもつながっていったんだ。

さくこ すごい、ぜんぶつながっているんですね。今日は色々質問しちゃいましたけど、トヨタがなにを考えているのかわかっておもしろかったです。こういう価値観がもっと世の中に広まったらいいなぁ。

トヨタさん 豊田社長からは、ビジネスパーソンとしてではなく、一人の人間としてやるべきことを考えようと言われたことがあるんだよ。その視点で考えると、SDGsって特別難しいことじゃないと思うんだ。トヨタらしさでもある「自分以外の誰かのため」という言葉を僕ら自身日々の仕事を通じて一層体現できたら、社会をよりよく変えていくことができるんじゃないかな。

▼ポイント

 

  • ・CO2排出量は燃料を作る、運ぶことなども含めたライフサイクル全体で考えるべき
  • ・日本から雇用、国力を失わないでカーボンニュートラルの実現へ
  • ・トヨタのSDGsはあらゆる側面を意識して立体的につながっている