高校の同級生から、電話が来た。
「アメリカに行ってくるね」と。
彼は、いつも唐突である。そして、その電話も、あくまでいつも通りの彼だった。
僕もできるだけいつも通りの言葉で、
「いってらっしゃい、気を付けて」
と言った。
無事で帰ってこれますよう。


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今日のお仕事は、母校の卒業イベント。
高校を卒業してから何年か経って、もうさすがに知っている顔もいなくなってしまうんじゃないか、と思っていた。
でも、こうして集いの場としてカーゴを利用してくれているおかげで、まだ沢山の後輩と楽しく話すことができています。
しっかりサポートするので、どうか最高の思い出を作って帰ってほしいな。
人生最後になるかも知れない卒業イベントだしね。
楽しんで。


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「思うに、僕はひどく深い後悔の渦に飲み込まれているみたいなんだ」
風が強く吹いていたし、彼は僕の前を歩いているのにこちらを振り向きもせずに話すのでよく聞き取れなかったけれど、多分そんな風なことを言った。
「後悔の渦に飲み込まれて、自分自身を浄化する術を探している。そんなもの、ありはしないのに」
「ないんじゃなくて、見つからないんじゃないの。僕にも、よくわからないけど」
また、風が強く吹いた。僕の言葉もかき消されてしまっただろう。伸びた髪の毛が口の中に入る。
と、彼が初めてこちらを振り向いた。風が吹き、彼の口の中にも髪の毛が入った。
「お揃いだ」と彼は笑って言った。
僕もつられて笑う。
「……ずないさ、僕ら……だもの」
ひときわ強い風が吹く。身体が押されそうになるのをこらえる。
「え?……あっ」
思わず聞き返したけれど、その瞬間に、彼が何を言っていたのか理解した。

「わからないはずないさ、僕らは一心同体だもの」

それに満足したように、彼はにっこりと笑って大きく頷くと、また僕の前を歩いて行ってしまった。
僕はというと、彼の放った言葉に捕われていた。
「一心同体」という言葉が、熱くて重たい鉛のトゲになって、お腹の奥の方にいつまでも残っているようだった。
彼はどういう意味でそう言ったのだろう。
どれだけ風が吹いても、僕はしばらくそこから動くことができずにいた。