板前の常識は世間の非常識
板編⑤ 

「鱧は梅雨の水を飲んで旨くなる」
というのは、祇園祭の代名詞、初夏から秋口まで出回る鱧は、梅雨が過ぎてから美味しくなるっていう例えですね。
あっ、「はも」って読みます。

僕は関東育ちなので、この鱧って魚は知ってはいましたが見たのは調理場に入ってからです。
獰猛な顔つき、鋭い歯、長い蛇の様な姿、おまけに身は骨だらけ....
ご存知お江戸は鰻が有名なので、
「西の方は食う魚がいないからあんな骨ばっかりの魚を食うんだ」
って言った人がいるとかいないとか...

鱧に噛まれて「うぎゃ〜」って言いながらブルンブルン振って振り放そうとしてた先輩がいたっけなあ。。

うちの調理場は、親方の親方が大阪出身、の「鬼の薮内」と呼ばれる方だったそうで、関西の板前割烹の流れをくむ料理を提供していたので自然と鰻より鱧の方が実は使用頻度が高かったんです。
僕らにしてみたら、鬼の親方が鬼と呼ぶ親方はどんな人なんだろうといつもヒソヒソ話していたんですんが......

季節になると前菜には「鱧のバッテラ」(押し鮨ですね)が入り、鱧のお椀、
鱧の落とし(刺身)、鱧の天ぷら、鱧フライ、鱧と松茸の鍋、なんかがよく出されました。
カウンターでは、皮を鍋でこする様に火を入れて、さっと湯に通してから熱いまま提供していましたね。 自家製の梅干しで作った梅肉醤油と共に。

ところでこの鱧、食べるまでが非常に面倒なんですね。
皮は臭いしヌルヌルなので、白くなるまで綺麗に綺麗に包丁でしごきます。
70度のお湯で霜降りしてからヘチマでこするって方法もあるそうですね。
その後開いて、ヒレを取って、骨切りをしてから、霜降りしたり、煮たり焼いたりする訳です。

「骨切り」って言うのは、鱧は身に骨が沢山あるので、俗に「1寸を24切れ」に落とすと言われるくらい薄く、皮を切ってしまわない様に身だけに包丁目を入れる訳です。
先人の知恵は素晴らしいですね。
今は、俎板自体を28度に傾けてゆっくりと切る方もいますね。
ここ4年鱧触ってないので、次の機会に試してみようと思ってます。

ほし川では見る事しか許されなかった人生初の鱧は初島の時にやってきました。
包丁は鱧の骨切り専用の「鱧の骨切り包丁」。
もうギンギンに研いで準備万端。
この日の為に紙を丸めて切る練習したり、シャドー骨切りを何度もして本番に備えて来た。
軽快に「ザッザッザッ」と進むはずが、1刀目は自分の指の皮でした。。。。
やっぱ紙と魚は違うな〜、と言ってもられないので、兄貴と一緒に必死こいて包丁しました。
1日5〜10本やる訳です、京都の板前さんはもっともっとやるでしょうけど、当時の僕にはこれでも精一杯。
兄貴はよく「仕事はリズムと反射神経」だって言ってましたね。
確かに見てるとリズム良くザッザッと切っている....
まさに切る事が調理。 

板は奥が深いなあ....

ところで、鱧は京都とか淡路島が有名ですが、静岡の浜松も有名ですよ!
金色に輝くの700gから800g位の良い型の鱧が沢山揚がってます。
旨いですよ、お試しあれ。

つづく。。