この少年、昌吉は児童養護施設にいる。陰湿で狡猾で粗暴。主人公 利雄は彼に殴られ蹴られ、いじめ抜かれて昌吉に隷属する。
1949年の春から夏にかけての物語で、舞台は東北のS市のナザレト・ホーム。主人公の利雄は母が結核で療養所に入り、家を失ってホームに来た中学3年生。その境遇は作者の井上ひさしと重なる。昌吉は高校を出たばかりでホームを手伝っている。入所番号は 昌吉が15番、利雄は41番。仙台市のラ・サール・ホームがモデルだ。48年に主に戦災孤児のために開設。井上が弟と入所したころは光ケ丘天使園と称した。
昌吉は新聞社のオーナーの娘に手ひどく振られる。失意のどん底で彼は自らの将来の履歴書をつくる。百万円拾って大学に進み、失恋した彼女と結婚、新聞社の社長になって...。彼は利雄をだまして近所の少年を誘拐、身代金を得ようともくろむが、うまくいかず少年を殺してしまう。露見して捕まり、刑死する。
井上は自分の心の傷をえぐって人生の真実を書いたのだ。読後感は切ない。
作品の引用文は文春文庫から。
日本経済新聞 2015年1月24日(土)夕刊 文学周遊のページから抜粋。
文章は 編集委員 中沢義則さん。