【添付写真1】


 私はむろんヒトの生死に無関心ではないが、最近はそれよりむしろ野生動物(の生存と死亡)に関心が大だ。以前からその傾向ありだったが、昨今のSERS-CoV-2騒動以来とみにそうなった。

 そんな私のもとに、ある日、分厚い冊子が送られて来た。「岡山県レッドデータブック2020・絶滅のおそれのある野生生物:動物編」だ(添付写真1)。多くの興味ある内容が含まれるが、以下には総論の「哺乳類食肉目」のみを紹介する。文責は小林秀司(岡山理科大学理学部動物学教室)である。なお各論のニホンイタチの項は、私も共著者に名を連ねている(添付写真2)。

 

【添付写真2】
 

食肉目では、ニホンイタチがこれまでの情報不足から絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクアップした。ニホンイタチは、里の代表的な哺乳類で、数々の民話にも登場し日本人にとってもっとも馴染みのある獣の一つだろう。近年、本種について強調されるようになってきたのは雌雄の体格差である。オスがおよそ500g程度であるのに対して、メスはその3分の1以下である150g程度しかない個体が多く、ここまで顕著な体格差は類縁種には存在しない。すなわち、ニホンイタチは、これまでに考えられてきたよりずっと日本固有性の高い動物であり、ここまで体格差が顕著だと、当然、生態や行動圏でも雌雄間で大きな差を生じていると考えられるが、メスに関するデータは極端に不足しており、行動圏に関するデータすら数えるほどしかないのが現状である(渡辺、2019)。にもかかわらず、筆者のところに寄せられるイタチ属のロードキル遺体は、近年、シベリアイタチがそのほとんどを占めるようになり、県内でのニホンイタチの減少が懸念される状況にあり、IUCNでも本種をNT(準絶滅危惧)に指定するなど、全国的な減少傾向にあるのは間違いないようである。減少の原因としては、かつて本種が主要な採食、営巣場所としていた里山環境が荒廃し、ニホンイタチにとって重要な食料源や営巣場所が劣化し始めている可能性があるが、そもそも生態の多くの側面が未解明であるため、推測の域を出ない。渡辺(2019)は、体格差を利用した非繁殖期の糞塊調査、すなわち直径が1cm未満の糞であればニホンイタチメスの可能性が高いことを指摘しており、このことを利用すれば繁殖に特に重要な役割を担うはずのメスに関する効果的な調査が可能かもしれない。効果的な調査方法の発見が期待される。そのほかの哺乳類の種では、タヌキのように減少が懸念されている種もあるが、前述のように調査がほとんど行わておらず、生息状況が不明なので掲載は見送った。


 此処で引用されている私の文献は、ジャーナルに出た論文ではない。本ブログの第133話「イタチにはどれだけの土地が必要か」だ。なにぶん私は、"論文書かない人間"なのである(苦笑)。

 ま、それはさておき(自虐は見苦しいです)…斯様な状況を鑑みて、"ともかく調査をせねばならない"と思い発した。なにぶん銭が無い故、集中的な調査は行い得ていない。それでも今夏に、雑駁なる生活痕跡調査を行った。千葉県北部の印旛沼東部(農地)、栃木県南部の渡良瀬遊水地(葭原)、滋賀県甲賀市水口町(葭原)、そして滋賀県蒲生郡日野町(農地)にてだ。そして、「ニホンイタチはやはりやばい」という印象を得た。甲賀と日野の見聞録は、本ブログの第180話で記した。印旛沼と渡良瀬についても、近々に述べる。

 ニホンテンもやばい。近畿でのその印象を、私は本ブログの第182話で述べた。だが見かけ上は増えていると解釈出来ないこともなく(絶対にそうではないと思うが)、はっきり「やばい」と言えないのが辛いところだ。そして岡山県でのデータは、ゼロに等しい状況である。

 以下は、蝉のことについて述べる。一昨年頃からの現象のように思うのだが、「夏に、蝉の声をあまり聞かない」ように思える。今夏は、その傾向が特に顕著だ。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」という著書があるけれども、今夏はまさしく「サイレントサマー」である。

 とりわけ、ヒグラシの声を聞かない。比較的よく聞くのはミンミンゼミとニイニイゼミだが、それもプアだ。ツクツクボウシも、僅かである。そして例年なら(西日本の)「都市を賑わせる」クマゼミも、今夏はやけにおとなしい。アブラゼミは、それ以上に静かだ。更には、道沿いに羽化殻を見ない。ヒグラシやミンミンゼミの羽化殻は林内でないと見つかりにくいが、クマゼミとアブラゼミは「普通に道を歩いていて、嫌でも目につく」ものだったのだが…。

 「このことに気づいている者はどれだけいるだろうか?」と思い、とりあえず旧知の元大学教授(理科教育)にメールで問い合わせてみた。流石にこの人は、気づいていた。「確かに今年はアブラゼミの声があまり聞かれなかったですね。ヒグラシも殆ど聞かれませんでしたね」というのが、返信だ。更に、「ここ数年、スズメやヒヨなどの野鳥の数が激減しているように思います」という追伸があった。

 ニホンイタチとニホンテンが、減っている。蝉の全ての種がであり、鳥の少なからずもだ。カイツブリの激減は、鳥類学者達が既に気づいている。私的には、バンとケリを最近全く見ていない。ただこの2種は、地域差が顕著だ。私の現在の在地は、「元々あまりいない」所である。以前の在地の大阪府箕面市は、多かった。それで先日久しぶりに行ってみたのだが、「いることはいるが、激減している」のであった。

 ただなにぶん私は、さほど広域的には見ていない。だから「地球規模の異変が起きている」などとは言わない。前出の元大学教授はややお気楽に、「なにか地球の気候変動が今までにない状態になってきているのかもしれません」&「前から太陽活動がおかしくなっていますからその影響ではないかと個人的には考えています」と述べた。私的には、「それは関係なくて、人間による環境破壊が主因では?」と思う。でもむろん、それは仮説でしかない。

 仮説はさておきで…ともかく、データを取って「定量化」する必要がある。でもそれは言うは易し行うは難しだ。自然科学のことは、「ドイツ語さえ読めれば本が書ける」ようなお気楽なものではないのである。ちなみにこれは、某大学准教授に対する嫌味です。

 でもま、出来ることからボチボチやっていこうと思っている。蝉と鳥のことも気になるが、まずはイタチとテンですね。

 


 

ベルこのブログの筆者・渡辺茂樹が顧問として在籍するアスワットのHPベル

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