初めにお断りをする。私はブカンウィルスの公式名として、COVIDー19を使って来た。でもこれはウィルス名ではなくて、病名なのである(Dはdiseaseの頭文字)。WHOが定めたブカンウィルスの正式名は、SARSーCoVー2だ。

 以下が本話です。

 サイトカインには、有名なインターフェロンが含まれる。インターフェロンは免疫担当細胞から分泌され、抗ウィルス作用を持つタンパク質だ。腫瘍細胞の制圧にも関与する。

 インターフェロン以外のサイトカインは多種多様だが、それは機能において2種類に大別される。炎症性サイトカインと、抗炎症性サイトカインである。そしてこの2種類のサイトカインのバランスが崩れ、炎症性サイトカインが暴走する現象がサイトカインストームだ。自己免疫病の一つと言いうる。そしてそれは、ブカンウィルス(SARSーCoVー2)の感染により死に至る場合の主要原因なのだ。

 そのような暴走は高齢者に起こり易い。その理由について福岡伸一(青山学院大学教授)は、巧みな比喩で説明している。週刊文春の2020年6月25日号の阿川佐和子との対談にてだ。まず前段として「ウイルスは自分の細胞の一部がちぎれと飛び出したもの」(つまり家出をした子)と語る。そして「それがたまたま不良になって戻って来たのが悪者ウイルスである」と解説した後、以下のようにである。

 

【福岡】原理としては身体が過剰に反応しなければいいんです。ウイルスで重症化する人は、ウイルスが体内で悪さをしているというよりは「こんな不良が帰ってきた!!」と大騒ぎしちゃってるんですね。それが前回もお話しした「サイトカイン・ストーム」という現象です。

【阿川】免疫が暴走しちゃうという。それは体質の問題ですか?。

【福岡】それもありますし、老人になると免疫の調整能力が落ちる。運転でたとえると、逆走していまうことが多くなる。

【阿川】どこでブレーキを踏んでいいか、アクセルを踏んでいいか分からなくなっちゃって。でも、元気な若者だって重症化することはあるでしょ?。あれはどうして?。

【福岡】若者は免疫力がありすぎるがゆえにアクセルを踏み込みすぎてしまうことがあるんです。とはいえ、多くの若者は悪者ウイルスを制圧できるように基本的にはなっています。

 

 

 而して10歳以下のチャイルドは、ブカンウイルスの感染率が低い。それについては別の理由が考えられている。このウイルスのスパイクは、ヒトの細胞のACE2(アンジオテンシン変換酵素2)という受容体に付着した後にその中に侵入する。チャイルドは、その受容体が未だあまり発現していないのだという。これは、週刊文春の2020年6月18日号に記されていた情報だ。

 而してサイトカインストームは、具体的にどのような症状を引き起こすのか?。「感染症や薬剤投与などの原因により、血中サイトカインの異常上昇が起こり、その作用が全身に及ぶ結果、好中球の活性化、血液凝固機構活性化、血管拡張などを介して、ショック・播種性血管内凝固症候群・多臓器不全にまで進行する」…というのが、ネットの書き込みだ。斯様な症状が、ブカンウィルス感染によっても引き起こされるのであろう。

 そしてブカンウイルスは、サイトカインストームを特に引き起こし易い。その理由について、日刊ゲンダイの2020年6月12日版は、佐藤佳(東京大学医科学研究所付属感染症国際研究センター准教授)の以下の言を引用して解説する。
 

実は、新型コロナウィルスは、"ORF(オープンリーディングフレーム)3b"と呼ばれるウィルス性タンパク質を持っており、それがインターフェロンというサイトカインの一種を強力に抑制していることがわかったのです。


 インターフェロンは抗ウィルス作用のあるサイトカインだ。だからその分泌を抑制することは、新型コロナウィルス…つまりブカンウィルスにとっての「自衛」のbehaviourだ。どういう因果関係でかはよく分からぬが、その結果炎症性サイトカインが幅を利かすようになる。そしてサイトカインストームが起きるのである。

 つまりブカンウィルスによって起きる重症化は、ウィルスの直接的攻撃により生じるのではない。 宿主の「過剰反応」が直接原因である。それは例えば、「ブカンウィルスの感染防止のためにロックアウトを行った」結果に似ているかもしれない。「防止の効果はさして無い」(時には逆効果である)一方で、「経済が崩壊する」ことにである。

 あるいは「ファシズムが進行する」ことにもなるかもだ。福岡と阿川も(前出の週刊文春にて)、そのことを危惧する。安倍晋三の「アプリをもうすぐリリースする」という発言をあげつらって、以下のようにだ。

 

【福岡】政府にあれこれ言われずに行動することが基本的人権のはずなのに、全部アプリでコントロールされ始めると、やがてマイナンバー等に紐づけされて個人がデータ化される可能性があるんじゃないかと危惧しています。国民の側も、自らそういう方向になびいて行ってしまう人も多いかもしれない。なにか言われたほうが楽だから。

【阿川】政府が「おまえの命を守るためなんだ」という正義のエクスキューズの下に、人々を統括するのに一番いい方法だと気づいたんじゃないかと思うとすごく怖い。


 私の住む街では…今なお、道歩く人の9割以上がマスクを着用している。この街では感染者が殆ど出ていないのにだ。極めて異様で、かつ恐ろしい現象である。それはたぶん月刊誌「実話BUNKAタブー」が言うところの"日本人の家畜根性の表れ"であり、エーリッヒ・フロムが言うところの"自由からの逃走"であろう。私にはウイルスよりも、そのような社会現象の方が遥かに怖い。

 ま、それはさておき…インターフェロン抑制効果のあるタンパク質は、ブカンウィルスと同系のコロナウィルスであるSARSーCoVー1には存在しないという。だがコロナウィルス類とは別系統のウィルスで、コウモリやセンザンコウを宿主とするORF3bには存在するとのことだ。あるいはブカンウィルスは、このウィルスと旧型コロナウィルスの組換えにより生じたのかもしれない。

佐藤准教授は以下のようにも言う。

 

ウィルスならば何でも病原体となるわけではなく、感染してもまったく病気を起こさないウィルスもいます。また人間にとって病原体となるウィルスが、他の動物では病原体とならない場合もありますし、その逆もあります。例えばコウモリは多くの病原体を持っているといわれていますし、新型コロナウィルスに類似のウィルスも分離されていますが、コウモリ自体は病気になりません。コウモリは病気にならないのに、なぜ人間にとっては病原体になり、病気を発症するのか。そのメカニズムがわかれば人間も、新型コロナウィルスをはじめ、さまざまな病原体に侵されても、その発症を止める方法の開発につながるカギになるのではないか、と考えています。


 なるほど。興味深い視点ですね。ただ私は、「コウモリは、本当に(全ての個体が)病気にならないのか?」と疑う。我々が気づいていないだけで、某かは「発病して死んでいる」のではないか?。例えばミクソーマ・ウィルスはワタオウサギと共生関係にあり、宿主をあまり殺さない。けれども時には死者が出る。ニホンノウサギにおける野兎病(この病原体は細菌)も、同様だ。おそらくその個体は、「免疫力が弱い」のだろう。おそらくヒトと違って高齢ゆえではなく、何らかの別の理由にて。

 而してヒトは(殊に先進国では)、「野生動物ならばとっくに死んでいる筈」の個体が多数生き長らえている。それは結構なことだ。だがその人たちがサイトカインストームで重症化して死ぬのは、「やむを得ない」ようにも思える。私も高齢者だが、自身は「朝(あした)に道を聞かば、夕(ゆうべ)に死すとも可なり」と心境である。ただし、それを他者に強いてはいけない。大西つねきが言う「選別」の論理を採用すれば、社会は崩壊する。

 村上陽一郎は「死ねない時代の哲学」(2020)で、以下のように言っている。このことは、厳然たる事実だ。

 

動物の世界には、基本的に「老い」はありません。自然界に「老いた個体」はいない、というのが正確な言い方でしょうか。

動物では老いは死に直結しています。老いた動物は死ぬしかなく、結果としてわれわれが老いた動物に出会うことはないということになります。


 むろん此処での主語の「動物」は、「人間以外の動物」とするのが正確だ。あるいは「野生動物」としても良いだろう。

 野生動物とウィルスの共生状況の研究には、大いなる未来がある。対して…社会生態や個体群生態の研究は最早限界に近く、凡庸ならざる成果を得るのは難しい。若手研究者は此度の騒動を「瓢箪から駒」(ないしは「塞翁が馬」)と考え、ウィルス研究に触手を伸ばしてもよいのではないか?。

 


 

ベルこのブログの筆者・渡辺茂樹が顧問として在籍するアスワットのHPベル

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