【添付写真1】


 第168話に引き続き、またNHKの動物番組を紹介する。毎週日曜19時30分より放送の「ダーウィンが来た!」シリーズで、2020年4月26日放送の「東京多摩川の動物たち・台風で出現!魚の宝庫」だ(添付写真1)。

 このシリーズは、昨夏に"多摩川でのニホンイタチの子育て"を放送している。その内容の紹介は、本ブログの第129話で行った。この日の放送はその続編で、此度も準絶滅危惧種:NT(IUCN基準)のこの動物が登場する。ただしNHKは何故か、ニホンイタチをその種(species)名で呼ばない。属(genus)名の"イタチ"で呼ぶ。

 ちなみにイタチ属の国際名称は Mustela  で、その中には約20種が含まれる。日本に分布するイタチ属の種はニホンイタチ(学名 Mustela  itatsi  )、シベリアイタチ(同 Mustela  sibirica ) 、オコジョ(同 Mustela  erminea  )、そしてイイズナ(同 Mustela  nivalis  ) の4種だ。この他にフェレット(学名 Mustela  putorius  furo  ) がペットとした生存しているが、今のところ野生化はしていない。

 斯様な"マニアック"なことを此の場で述べるのは、やや気が引ける。だが「NHKの語法は良くない」と言いたいがために、敢えて記した。出来たら今後は種名のニホンイタチを使用して貰いたい。 

 ただこのことは、NHKの責任ではないかもしれぬ。諸悪の根源は環境省かな?。環境省は理不尽にも、学名 Mustela  itatsi  の和名を"イタチ"としている。そしてその中に亜種ニホンイタチ(学名 Mustela  itatsi  itatsi  )と、亜種コイタチ(学名 Mustela  itatsi  sho  )が含まれるという位置付けだ。古にはこの他に亜種オオシマイタチなるものが図鑑に載っていたが、それは採用していない。

 だが斯様な分類法は、現在のアカデミズム世界では否定されている。そもそも最近は"亜種"なる分類概念が揺らいでいるのだが(それより"遺伝集団"とすべきだろう)…よしんばそれを認めても、亜種コイタチは存在しない。そのことは、北海道大学の増田隆一により明かされた"科学的事実"だ。故にニホンイタチが亜種名であることは、もはや有り得ないのである。環境省は潔く、 Mustela  itatsi  の和名を"ニホンイタチ"に改めるべきだ。ムステラ・イタチは日本固有種のことでもある。

 ついでに言えば、学名 Mustela  sibirica   の和名を"チョウセンイタチ"とすることも止めて貰いたい。日本哺乳類学会の語法に従って、"シベリアイタチ"を使って欲しい。和名のチョウセンイタチは、シベリアイタチの亜種 Mustela  sibirica  coreana  に対して用いるのが筋である。

 ちなみに環境省は最近、対馬の Mustela  sibirica   の地域個体群を絶滅危惧種:ENに指定し、その和名をシベリアイタチとした。対馬の個体群を亜種認定もせずにだ。同個体群が絶滅危惧であることには同意する。だがそれをENとするのは、論理破綻だ。対馬のムステラ・シビリカは現状では、LP(絶滅が危惧される地域個体群)にしか成り得ない。

 ただ環境省は、諸悪の根源ではないかもしれない。厚生労働省や国土交通省もそうだが、かれらは概して自分の頭で考えない。能力はある筈だがそれをせず、委嘱した研究者の指示のままに動く。この件で環境省を操っているのは、おそらく石井信夫(東京女子大学)だろう。この人物のことは、本ブログの第118話で紹介した。

 のっけから話が脱線しとるな(苦笑)。以後未だ暫くは、本題に入らない。

 ニホンイタチの育児行動を観察した者は、これまでにも何人かいる筈だ。だがそれをpublishした者は私と、私の共同研究者だった大島和男だけだと思う。大島は廃刊になったジヤーナル「アニマ」に、写真入りでそのさまを紹介している。フィールドは大阪府箕面市勝尾寺川流域の、粟生間谷界隈だ。だがその後、この地からニホンイタチは消えた。私が"日本国環境省もニホンイタチをNT指定すべき"と願うのは、そのことが原点になっている。

 私が自身でニホンイタチの子育てを観察して気づいたのは、この動物の子育てのためには"安全な繁殖巣が不可欠"ということだ。そしてその巣に"良好な餌場が近接している"ことが必要だ。ニホンイタチの雌の行動圏は狭い。確認されているところでは約1haで、雄の10分の1程である。そして雄は雌の子育てを手伝わない。だから子育て中の雌は100m四方の範囲内で離乳した子に餌を与え、かつ自らの命を繋がねばならない。そのような環境が、昨今は激減しているのだ。

 ちなみに野生動物は、子のために親が自己を犠牲にする(「グスコーブドリの伝記」的な)行動はまずしない。そのことは本ブログの第168話にて、ヒグマの例で述べた。

 ともあれ箕面では、繁殖巣は護岸壁の裏側(の土壁との間の隙間)に在った。多摩川は地下巣だ。餌場は箕面はアメリカザリガニが多量に棲む(川縁の)ミゾソバ群落で、多摩川は小魚が集まる止水である。ニホンイタチは泳ぎが上手でないので、強い流れの中で大きな魚を得るのは難しい。だが多摩川の地下繁殖巣の近くには、川岸に消波ブロックがある。それが淀み(つまり止水)を形成し、其処に小魚が密集していたのだ。箕面で母親が子に与える餌は殆どアメリカザリガニだったが、多摩川では殆ど小魚だったという。最適採食説ドンピシャの現象ですね。ちなみにその魚が何であるかは、NHKは調べていない。

 多摩川のその繁殖巣の所在は、秋川が西から合流する三角州地形(トライアングル)だ。昨夏に子が巣立ちした後、多摩川を巨大台風が襲った。むろんトライアングルは完全に水没し、そして土砂に埋まった筈である。年が明けてから私は、「いまどうなっているだろう?」を見に行った。その時の見聞録は、本ブログの第144話に記した。

 これより本題です。

 私の本年1月の多摩川紀行よりも先に、NHKと地元動物写真家は"台風のあとの多摩川"を取材した。そして幾つかの興味ある知見を得た。そのことが、この日の放送の内容である。

 


【添付写真2】


 本年の1月に私は、トライアングルの少し下流から歩き始めた。だがトライアングルを橋上から見下ろして"こりや駄目だ"と思い(添付写真2)、中には立ち入らなかった。木本の多くが根元から剥がれ、草本は完全に泥に埋まっていたからだ。それは迂闊だった。足を踏み入れなかった故に、NHKの以下の発見を(番組放送前には)知り得なかったのである。

 泥に埋もれたトライアングル内のあちこちには、大小合わせて計30個程の水たまりが出来ていたという。そこが「魚の宝庫」になってた。水たまりは地下で多摩川と繋がっている故、涸れかけても水が補給される。そして宝庫内の小魚を目当てに、鳥(アオサギ等)や獣が集まって来たという。獣は人目がある時はあまり現れないが、足跡で確認出来る。タヌキが大半だが、イタチの足跡も僅かに認められたという。それでNHKは、カメラの自動撮影装置を配置した。撮れた獣はやはりタヌキが多かったが、イノシシも現れた。アライグマも出現し、タヌキと並んで仲良く(?)小魚漁をしていた。

 ニホンイタチも現れて、やはり魚を食べた。その個体が雌か雄かは判定出来ない。スケールが映っていれば一目瞭然なのだが、カメラの視野内にそれが無いのだ。スケールは人工物ということで、忌避したのかもしれないな。だがそれを言うなら、消波ブロックかて人工物である。むろん護岸壁も。

 「タヌキが何故こんなに多いのか?」というNHKの疑問に、金子弥生(東京農工大学)が解答した。タヌキ(イヌ科です)は、ネコ科の各種のような優秀なハンターではない。つまり狩りの特技を持たない故、動く新鮮な動物を得るのは難しい。だが本当はそれが食べたい。だから小魚を容易に得ることが出来たことを知り、狂喜してやって来たのだろうというのが金子の説だ。仲間うちでのコミュニケーションもあるのでしょうね。

 そもそも東京は、住宅地にタヌキが多い。つまりかれらは「面の世界」に暮らしている。西日本ではシベリアイタチがそうだ。だがニホンイタチは(何故か)"人間嫌い"である。里山には棲むが、都市環境は忌避する。だから東京(の奥多摩地域以外)でのニホンイタチの生活空間は、多摩川という「線の世界」に限定される。必然的に、距離あたりの棲息密度は低くなる筈だ。

 ちなみに他の東京の大河川…荒川とその支流の隅田川(源流は秩父)、ならびに江戸川ではニホンイタチの棲息は確認されていない。江戸川は利根川水系で、"流出の"支流だ。東京ではないが、同じ利根川水系の渡良瀬川には棲息している。こちらは"流入の"支流だ。

 その「線の世界」は、細く長く(時には分岐して)広がっているであろう。でないと、個体群を維持出来ない。私は本ブログの第133話にて、ニホンイタチの個体群維持に必要な最小限面積を550haと見積もった(シベリアイタチではこれより広くなる)。むろん必要最小限の餌資源が有ることが前提だ。それと(前述のように)営巣条件も欠かせない。多摩川のトライアングルではそれは地下なのだが、河川敷の地下は水没のリスクがある。護岸壁の隙間がベターだが、トライアングルにはそのような物は見当たらない。

 で、ですね。多摩川のトライアングルで今後も撮影&調査を行うならば、人工巣(になりうる建造物)の設営を提案したい。設営とかいっても、たいそうなものではない。コンクリートブロックを(隙間が具合良く出来るように)積み上げるだけで良い。幸い、水たまりという格好の餌場が出来た。消波ブロックを再び置くのも良いだろう。前述のように、ニホンイタチの育児には「餌場と繁殖巣が接近している」ことが望ましい。前者は既にクリアされた。ならば後者を、"作ってあげて"も良いのじゃないかと思う。

 


【添付写真3】


 以下には、本ブログの第144話で述べたことを少々。今年の1月にトライアングルをスルーした私は、やや上流の羽村地区でニホンイタチの足跡を発見した。2地点のうち1つは、サイズからして雌のものと思われた。このあたりの川岸は砂利で覆われていて、「魚の宝庫」たる水たまりは出来てない(添付写真3) 。だが川岸の植生は、トライアングル程には破壊されていない。暖かくなれば草本植生もかなり回復し、昆虫やミミズ、あるいはネズミ類も"戻って来る"のではないか?。つまり餌条件はクリア出来るだろう。問題は営巣条件だが、この地にも護岸壁は無い。つまり良好とは思えぬ。ならばこの地にも(もし撮影や調査をするのなら)「人工巣設営」をお勧めしたい。

 トライアングルでは運良く発見出来たけれど、ニホンイタチの繁殖巣探索は至難だ。だから人工巣をもし使ってくれるなら、"ラッキー!"である。工夫すれば、巣の内部を覗く仕掛けも造りうる。つまりこちらのペースで調査が出来る筈である。NHKには、是非ともそれをお勧めしたい。あ、東京農工大学にも。

 初めに余談を述べた。終いに別の余談を記す。

 本ブログの第145話の冒頭にて、私は以下の短歌を詠んだ。

 

● 東京は  罰せられねば  なりません  虚飾に満ちた  汚濁の街は 


 この歌の"ねば"は修辞表現であり、私がそれを望んでいる訳ではない。だがいま東京は、まさしく「罰せられている」状態だ。ほぼ戒厳令下にあり、経済活動が停止してしまったという噂である。

 そのような時に割りを食うのは弱者だ。第145話の未に登場する薄幸の少女のことが思い出される。母子家庭に育って母を失った彼女は、ひとりぼっちになった。それでもめげずにメイド喫茶で生活費を稼ぎ、通信定時制の高校に通っている。けれども戒厳令下ではメイド喫茶は休業だ。貯金はあまり無いだろう。「あの少女は生き残れるだろうか?」…と、私は憂える。  

 


 

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