この本をはじめて読んだのは、まだ政権交代間もないときでした。ふと思うことがあって、先日読み返してみることにしました。改めて、この本のすごさを知りました。

 著者(村上正泰)は、元官僚であり自民党時代の医療制度改革に携わってきました。小泉首相の答弁も書いたということです。この本は、著者自身の懺悔でもあります。

 といっても、「資本主義はなぜ自壊したのか」を自らの「懺悔の書」として中谷巌氏に対しては、「構造改革論とは正反対の議論をしながら、中身が空っぽという点で構造改革論となんら変わらない」(つまり振り子)と切り捨てています。この本には、中身が詰まっています。

 以前書いた保険料未納の問題 ですが、高額所得者ほど収入に対する保険料の割合が低いことがこの本を読んでわかりました。逆に言えば、低所得者は収入に対する保険料負担の割合が比較的高いため、未納になりやすいのです。まずます格差が増大しますね。

 何かと評判の悪かった後期高齢者医療制度が成立した背景も、よくわかりました(民主党政権下では廃止されるはずですが・・・)。

 医療費伸び率管理が議論された経済財政諮問会議ではかつて、「民間議員=正義」であり、「抵抗勢力」である役人(著者もその一人)・尾辻厚生労働省大臣は苦境に立たされていました(最近もどこかで見たような・・・)。結局「伸び率管理」はなくなりましたが、代わりにメタボ検診(検診率)と平均在院日数短縮という数値目標が設定されました。しかし、この設定は「えいやっ」で決まったのです。
・・・・根拠のない数値目標を設定する意味などまったくありはしない。私は当時、厚生労働省においてこの数値目標の設定を担当していたが、「なんらかの指標が必要」という小泉総理の言葉を受けて、仕方なく「えいやっ」と設定しただけの代物なのだ。
 これにはぶったまげました。

 さて、「医療崩壊の真犯人」とは誰でしょう?一義的には、医療費抑制政策であり、この政策を進めてきた政府・官僚の責任に他なりません。著者自らも反省すべき点は多々あると吐露しています。
 しかし、後期高齢者医療制度は郵政選挙で大勝した自民党のマニフェストでした。マスコミの報道の仕方にも問題があるのですが、結局のところ、選挙民私たちに責任が行き着くのではないでしょうか?
 物事の本質から目を逸らし、センセーショナルな報道を一方的に繰り返すマスコミの側にも大きな問題がある。それと同時に、マスコミの影響を受けるかたちで、構造改革騒ぎに熱狂的な拍手喝采、歓呼激励を一貫して送りつづけたのは国民自身にほかならない。
 著者は医療費を2007年度で33兆円(対GNP比で6.5%)の医療費を2015年度には約50兆円(同8.5%)に引き上げることを提言しています。いったいどのような医療が実現するのか、それよりも財源をどうするのか想像できません。著者の次作で、明らかになるように期待します。
 それと同時に、著者には鳩山政権の医療政策における評価もしてもらいたいです。この本が出たのは、政権交代後間もないときです。本では、慎重になりつつも民主党政権に対する期待がにじみ出ています。それと同時に、前・自民党政権にも是々非々で論じています。正当な評価を次作でもしてもらいたいです。

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