ふるさとは、夏 | 自然の話をしよう。

自然の話をしよう。

普段なら見過ごしてしまう、自然のアンナコトやコンナコト。古風な角刈り
(自称 五分刈り)の三十路男子・板さんがカメラや旅を通じて、大好きな
自然にまつわることを、独断と偏見そのままに紹介します。

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小学校時代、僕が好きだった本に、『ふるさとは、夏』という
本があります。いまは、文庫にもなっているようです。
→http://www.tsutaya.co.jp/works/40320429.html
 (ツタヤオンライン)

芝田勝茂さん著のこの作品は、主人公の道夫少年の、ひと夏の
不思議な体験を描いたもの。夏休みに父の実家に行った道夫少年が、
愉快で個性的な神様、そして少女ヒスイや地元の少年たちとの出会いを
通じて、成長していく様子を描いたファンタジーです。

物語に登場する神様たちがおもしろいのはもちろんのこと、
会話の多くが方言で語られるため、じんわりと温かみのある
ストーリーになっています。その方言は、奇しくも愛知県~
岐阜県の方言とよく似ています。いま僕が暮らしている
地域が舞台となっているのかもしれません。

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さて、里帰りした先週末は、ちょうど近所の八幡様のお祭りでした。
実家にほど近い駅に向かうと、すでに神輿を担いだチョイ悪オヤジたちが
いて、「エッサ、ホイサ!」という粋な声が、リズミカルに響いています。

エッサ、ホイサ! エッサ、ホイサ!! ハイ、ハイ、ハイ!!
もっと声出して! エッサ、ホイサ!……

こんなににぎやかだったっけ、わが街は?
こんなにチョイ悪オヤジがいたっけ、わが街は?
大の大人が真剣に、そして酒臭い息を吐きながら、神輿を担ぎます。
シニアも若者も、男も女もない世界。

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祭りというのは、不思議な空間です。
威勢のいい声や太鼓の音を聞くだけで、体の芯にあるなにかが
突然たぎるような、ものすごい高揚感を与えてくれます。

人に対する意識も大きく変わります。
いつもなら人ごみを避けて通るのに、ハッピを着た人たちが
たむろしているところは、「人ごみ」と感じません。
酒臭いオヤジが、「最近見なかったじゃんかよ! 元気か!」
とデカイ声でしゃべっていても、ぜんぜんうるさく感じません。

『ふるさとは、夏』のラストシーンは、祭りではなく盆踊り。
神様たちとはしゃぎながら踊ったあとは、別れのシーン。
ヒスイは「みち君、もう会えんがに」と、ぽろぽろと涙を流します。
祭りや踊りの醸す明るい空間と、星空の下の別れ――対比が美しい、
感動のクライマックスなのです。

    *    *    *    *

方言こそないものの、今回僕は、わが街にあった“古き良き時代”の
ふるさとを垣間見たのでした。まさか、20年近く住み慣れた実家で
こんなことを感じることになろうとは思いませんでしたが。

愛知県の我が家もなかなかステキなところですが、まだ
「ふるさと」ではありません。そのうち、『ふるさとは、夏』
の舞台のように、じんわりと、温かく溶け込んでいきたいものです。



※この記事中の写真は、オリンパス「OM-1」で撮影