睡眠障害の専門医・中山明峰医師のブログより転載させて頂きました。

 

 

 

社団法人日本・中医保健医学会の西川修理事長と台日文化伝承交流協会の正田千媛理事長のご厚意により、「データで逆算する長寿法」というテーマでお話しさせていただく機会を賜り、心より感謝申し上げます。
2時間という長時間にもかかわらず、最後まで熱心に耳を傾けてくださった多くの聴衆の皆さま、そして数多くのご質問をいただいたことに、大変感動いたしました。和やかでありながら学びの深い、とても充実した勉強会でした。会のますますのご繁栄を心よりお祈り申し上げます。

 

「講演要旨」
国際的な平均寿命データを精査すると、スペイン北西部に位置するガリシア地方が際立った長寿地域として浮上する。同地方の人口はスペイン全体の5.8%に過ぎないが、百歳以上人口の実に12%を占める。疫学的観点からこの地域を分析した結果、三つの独立した寄与因子が同定された。第一に、オリーブオイル・青魚・豆類を基軸とする地中海式食事パターンであり、その抗炎症・抗酸化作用が細胞老化の抑制に寄与することがPREDIMED試験をはじめとする複数の無作為化比較試験によって実証されている。第二に、家族および地域コミュニティとの強固な社会的紐帯であり、Holt-Lunstad らの大規模メタ解析は、社会的孤立が1日15本の喫煙と同等の死亡リスクを有することを示している。第三に、農業・漁業に代表される日常的中強度身体活動であり、Saint-Maurice らの研究では1日8,000歩達成により全死亡リスクが51%低下することが報告されている。
しかしながら、これら三因子の分析において見落とされがちな共通基盤が存在する。それが睡眠である。Cappuccio らによる138万人を対象としたメタ解析は、睡眠時間と死亡リスクの間にU字型関係を示しており、7時間がリスク最小点となる一方、4時間以下では相対リスク1.65倍、10時間以上でも1.42倍の上昇が認められる。睡眠の質的・量的障害は、食欲調節ホルモン(レプチン・グレリン)の乱れ、免疫機能低下、認知機能障害、情動調節不全を連鎖的に惹起し、食事・運動・社会的交流という三因子すべてを機能的に毀損する。睡眠は長寿戦略の「基盤インフラ」と位置づけるべき因子である。
この観点から日本の現状を見ると、その深刻さは明白である。OECD時間使用データベースによれば、日本の平均睡眠時間は6.35時間と世界最短水準にあり、最適値との乖離は40分以上に及ぶ。この慢性的睡眠不足は小児期から顕在化しており、文部科学省の調査では不登校児童生徒数が2015年の約13万人から2023年には約34.6万人へと約2.7倍に増加しており、睡眠障害との因果的関連が強く示唆される。
一般社団法人「寝る子は育つ協会」は、この課題に対し専門医・教育者・行政が連携する循環型睡眠教育モデルを構築し、三重県桑名市との協働事業として学術的検証を進めている。
エビデンスを総合すると、長寿戦略の本質は次の五因子の有機的統合にある。地中海式食事、社会的絆の維持、日常的身体活動、睡眠7時間の確保、そして目的意識・生きがいの保持である。なかでも睡眠は他の四因子すべてに影響を及ぼす根幹因子であり、今夜の良質な睡眠こそが、長寿への最初の、そして最も確実な一歩となる。