ドナー(臓器提供者)という存在は、
本当に不思議な立ち位置のままで、
手術を受け、
入院生活を送ることになります。
身体的には、メスが入り、
臓器を切り取られたり、
摘出される訳ですから、
当然、痛みはありますし、
カテーテルやドレーンといった、
さまざまな管も挿入され、
まさに「病人」そのものです。
ですが、元々ドナーは健康体なので、
時間の経過とともに、
健康を取り戻すことは、
半ば、保証されています。
その上、
手術後の身体の痛みはあるけれども、
それと引き換えに、
大切な家族を救えたという、
精神的な充足感に、満たされます。
〈痛いのにうれしい〉という、
アンビバレントな心情を抱えて、
退院することになるわけですが…
そんな「つかの間の病人」でも、
退院して、久しぶりに電車に乗った時の、
キラキラした解放感や、
「今日からは、家の中で、
何をしてもしなくてもいいし、
何でも好きなものが食べられる」という、
選択の自由を、取り戻した喜びは、
今でも鮮やかに、よみがえってきます。